塗り潰してしまえ

相も変わらない、この景色。この風景。


相も変わらない、この二人。この距離。



彼女は仕事の為にパソコンに向かい、彼はソファに腰を掛けて、何かを読んでいる。
組織を表すいつもの黒のロングトレンチコートはハンガーに掛かり、同じく黒い帽子も取っている。
白いハイネックと、黒いズボン。
部外者から見れば、任務以外の格好は少々珍しいものでもあるが、彼女は既に見慣れていた。

何せ、彼は仕事の関係とそれ以外でもよく情報を扱う‥否、彼女來が此処にいるためでもあるが。


でも、特に何をするわけでもなく。ただ、居るだけ。

退屈になってきたのか、彼‥ジンはシュ、と何かを擦った。そんな音が聞こえた。
きっと、いつものように煙草を吸うためにマッチに火を灯したのだろう。
聞き慣れた音が、そう私に告げた。

内心。此処は情報を扱うので禁煙にして欲しいと叶いもしないことを願うも、カタカタとパソコンをいじり、目は画面に向けたまま問いかける。


「‥幹部様って、煙草吸うときマッチですよね。」
「‥‥あ?」


今の喫煙車なら、普通ならライターを使うだろう。
確か彼の愛車もポルシェ356Aと50年代のクラシックカーだし、使う銃もベレッタM1934と古いもの。
‥拘りなのだろうか。


「ガキには関係ねぇだろ。」
「ま、そうですね。私はまだ未成年ですし‥関係ないんですけどね。」


さらっと言い返してやりましたけど、周りがヘビースモーカーな人たちだから大アリなんですけどね。
たまに取引を一緒にやるときなんかは後ろに乗って車内は煙草の煙で満ちているし。
否応でも吸い込んでいる。

それに私は日本生まれだから、二十歳にならないと法律が許さない。
‥といっても、この組織に入っている以上、法律違反な事は数え切れないぐらいにやっていますが。


でも、黒に染まりつつある私でもまだ白い部分だってあるのよ。
単純に受け入れられないのだからそんなに言うほどでもないのですが。


煙草は無理。お酒だって飲めない。ノンアルコールのカクテルならいけるけど、彼の名のようないきなり強い酒なんか飲んだら、きっとすぐさま昇天行き。

だからって、煙草や酒の本物の味なんて知らなくて良い。
周りはガキだからって言われるけど、今の知る中では最小年だろうから。
子供扱いされるのは軽く腹が立つけど、事実なのだからと諦めている。


「‥吸いてぇか?」
「結構です。」
「遠慮するな、たかが‥」
「反抗したぐらいで私の後頭部にベレッタ押し宛てて言わないで下さい。」


ぴしゃり、と言ってやる。あくまで私の上司なのに。
さらっと言った理由が、後頭部にゴリ、と向けられたベレッタ。
彼の言ったとおりなら、このまま私の頭に風上を開けるでしょうが。


「職権乱用ですよ、幹部様。」
「知るか。」


冷静に反抗するも、本当に撃つ気配はない‥ことを祈る。
この‥冷たい目をする彼なら、笑いながら頭を撃ち抜きそうだ。


冷や汗をかくも、絶対に屈服はしない。
これが、彼女に僅かに残ったプライドでもあるから。

この、弱く脆くも奥に潜んだ強い目を、鏡越しでただ見つめた。

暫く黙り込む静寂が、先に破ったのは何かが置かれた音と、低い声。


「‥來。」
「‥な、何‥よ?」


後頭部に、ベレッタの感触が無くなった。そしてそのまま別のところに鉄のようなものが置かれたのだから、多分この場で撃たれることはなくなったのだろう。
‥‥そう、安心したのが間違いだった。

いきなり目線と言う目を奪われ、真っ直ぐ向けられるよう顎を捕まれる。

深い、深いエメラルドに來の瞳を奪われて。

その瞬間続けた行動に、警戒するべきだったと軽く後悔した。
美しい銀色が、目の前を、來の視界を支配する。


ただ、味わったことのない煙の味が、私の中に満ちていた。





塗り潰してしまえ
(‥ッ、肺ガンにでもなったらどうするのよ!)
((‥にしても、何なのこの変なドキドキは‥?!))