鍵を握る者。鍵穴を持つ者。


「…?幹部様。その傷…どうしたの?」
「あ?何処だ…」

「……此処。」



一瞬此方に向かって手の動きが止まっては、自らの頬に触れた。
矢張り、來から触れるのは流石に勇気が要ったか?

それよりも、來が当てた場所…頬。否、左眼より少し下の方を当てた。
彼女の言葉で言えば、『何かが掠ったような 痕。』と。


あぁそうか、あの時の傷だと納得した。
そうだ。前にハメられたときの、赤井秀一に付けられたの時か。

自分自身で納得すれば、いつものようにマッチで煙草に火を点けて吸う。
答えることもしないが、コイツ…、來は成程…と納得でもしたかのように頷く。


「こんな所にあるなんて気付かなかった…、やっぱり髪が長いからかな…?」



確かに昔ともそこまで古くなく、最近ともそこまで新しくない傷。
それをじぃっと見つめてくる部下兼彼女。あぁ、彼女。と言う言葉は余りにも語弊であるか。

だが、俺の為だと無茶に無茶を重ねてばかりなコイツ。
だけど、ひとつひとつの表情をコロコロ変えていく。


この…闇で暗躍する組織では、不釣合いなほどに。
脆くて、弱くて。そして、光のように眩しくて。



「幹部様?」



アジア系特有の黒い瞳が、此方を見てくる。
呑まれそうな程に、漆黒の 瞳。

可笑しい話だ。まさか、コイツを染めるはずが 俺が変わるなどと。
なんなら、コイツに染められる前に染めてやろうか…?

そっと、來に向かって手を伸ばそうとする。が。


「あ、そうだ!幹部様が頼んだ書類が出来上がったの!
持ってくるから少し待って下さいね。」



にっこり、と笑ってはそれだけを残して部屋を出てしまう。
結局。この場で捕らえることは出来ねーまま…。

沈黙しかこの場を支配していない。
ただ、手を掴もうとした奴を逃して…俺だけ。


逃げられねーように、手錠で捕まえたり部屋に監禁させたり…。
どんな、手段を使っても。

アイツが何処かに行くのなら、捕まえて何処かに閉じ込めても構わねぇ。
嗚呼そうか、俺が気付かないうちに染まっていたのか?


嘗て、何処かで聞いた言葉がある。
『女は、言葉にしてやらないと不安になる』と。


だが、何て声を掛ければ良い?好きか?愛してるか?
馬鹿馬鹿しい。仕舞いには下らねーとも思える。

第一、俺がそんな甘い言葉を掛けてやる必要が無い。それに…



「俺に“愛してる”とか似合わねぇなー…。」


ぽつり、自嘲気味に呟く。煙草の煙が、天井近くでぼんやりと虚ろで見えない靄で覆われる。
前なら、絶対に言葉になど出なかった。そんな俺を、ほんの少しだけ変えたのは…來。


高が10以上も幼い小娘風情に情けねぇ、と内心で葛藤する。



だが、アイツとのお遊びも此れまでだ。
アイツを地の果てまでも堕とし、そして俺の元で縋るように順応させてやる。


來。俺たちの関係は何だと思う?
甘い関係?違うな。かと言って、冷たいわけでもねぇ。

誰も知らない、関係ってやつを…教えてやるとするか?
なぁ?篠崎來。





鍵を握る者。鍵穴を持つ者。
(先に堕ちるのは…どちらだ?クッ…駆け引きか…。)