十二、それはまるで
| 燭台切光忠、大倶利伽羅、鶴丸国永
「あらあら」
すやすやと柔らかく下がった目尻が幸せそうに見えた。黒の周りを包むように寝そべるのは小さな白たち。ふわふわもふもふに囲まれているその様子を見ているだけで胸の奥が暖かくなれる。
「ああ、五虎ちゃんも寝ちゃったんだね」
大倶利伽羅さんが寒そうだから虎さんたちを貸してる、と言った五虎退は後から寝てしまったであろうに大倶利伽羅の大きな体にすっぽりと抱き寄せられていた。畳の上に寝転んだ大倶利伽羅と五虎退の周りには同じくすやすやと眠る五匹の子虎。微笑ましい光景を私の肩越しに見遣る光忠も一緒に笑っている。何か掛けるものを持ってきてあげようとの声に頷いてそっと背を向けた。
「ふふふ」
ほんの束の間だったはずなのに。光忠と肩を並べながら大きく出そうになった笑い声を賢明に噛み殺す。特に意味があったわけではないけど何枚か余分にタオルケットを持って来て良かった。
「小夜ちゃんに乱ちゃんかあ」
部屋の中には、虎をお腹に抱いた小夜と器用に子虎の間を縫ったのか横向きで眠る大倶利伽羅の背中に引っつく乱が増えていた。出来るだけ足音を立てないよう気をつけながらそれぞれの体にタオルケットを掛けていく。見上げるほどに大きな体の光忠がそろりそろりとゆっくり動く様子ですら微笑ましくて笑いそうになってしまうから困ってしまう。すやすやと繰り返される穏やかな呼吸も、優しい表情で忍び足を心掛けている光忠も。愛おしさのあまりに自然と笑みが溢れた。
時たま気分が乗った時だったり、光忠や歌仙からのお誘いに乗った時だったり。私も厨での作業に混ぜてもらうことがある。最初の頃は炊事を担当していたこともあったけれど、無難な物が作れるだけで得意というわけでもなくて。対する光忠と歌仙は手先が器用だったし何より料理を究めることが楽しいと言っていた。その時の表情を何度思い返しても嬉しいなと思うから口角は勝手に上がっていくばかりで。適材適所を強く推すわけではないけど楽しいと思うものが手を掛けた方が絶対に良くなる。私も料理自体は嫌いじゃないけれど、毎日自発的に厨に立つことは多分出来ない。文句も言わず厨に立つ彼等が手掛けるご飯は物凄く美味しい。非常に有難い限りである。今日は光忠からのお誘いで厨へ立った。といっても私が行うのはお手伝い。茹でたほうれん草の水気を切り下味をつけたり、煮物に使うじゃが芋の皮むきをしたり。外に続く戸の向こうでは光忠と歌仙と共に山姥切が魚を焼く七輪を幾つか用意していた。力仕事は僕たちに任せてと片目を瞑った光忠はなんというか色っぽい。少し手を止めて外を見れば、七輪を植木鉢のように軽々と持っている姿にさすがと感嘆する他なくて。下拵えが終わり歌仙がとっていた黄金色の出汁に具材を浸していく。火加減を調節しながら、何か甘味でも作ろうかと思案する。やがてお手伝いを終え厨を出た後。お目当ての部屋を覗けば先ほどよりも顔触れが増えていて。可愛いなあ。
「こりゃあ壮観だ」
にまにまと緩む口元はそのままに聞こえた声色に視線を移すと、いつの間にか鶴丸が横に立っている。気配を殺すのが上手い彼の行動にはすっかり慣れていた。私はその言葉に深く頷いて笑う。
「ええ、此処はまるで楽園ね」
違いないな。柔らかな吐息を吐き出しながら緩やかに細まる瞳を見上げて、声を出さずに笑った。