十五、氷炭相愛
| 乱藤四郎
私も御供致しますと真顔のまま男は言った。
「もう!いち兄ったら心配しすぎ!あるじさんのことはボクに任せて!」
ぷりぷりという表現はこの子のためにあるのだろうな、と思ってしまうくらいに文字通りぷりぷりと怒った乱は細長い両手を腰に添え仁王立ちの状態で長兄を見上げている。いつだって涼やかな表情を浮かべ淡々とした声色を出す一期一振は、下の弟たちの前だけでは心なしか僅かに表情を変える。現に、端整な顔を濃く彩るのは心配の色。この兄弟たちは本当に仲が良くてよろしい。本人たちは大真面目に己の言い分を通そうと火花を散らす勢いで睨み合っているけれど、微笑ましく思えてならない。まあまあと宥めるように笑いながら、私は乱の後ろから両肩に手を置いた。
「大丈夫よ、何があっても乱は守るから」
一期が心配する理由は痛いほどに分かる。主という立場である私だからこそしっかりとその役目を果たさなければと思うから、そう言ってにこりと笑うのに。鋭く細められた蜂蜜色の視線がばちっと音でもするかと思うほど強い意思を持って私を射抜くから驚いてしまう。はて、私は何か間違ったのかしらと思わず首を傾げた。一期はそのまま何も言わずに大きく息を吐き出している。
「あるじさん!」
肩に乗せた私の手に、ぽかぽかとした温かな手の平が重ねられて。強い語気で名前を呼ばれるから蜂蜜色の瞳と合わせていた視線を断ち切り、今度はこちらを仰ぎ見ている碧の瞳を見遣る。まろい頬をぷくりと膨らませる様子が可愛いなと思いながら視線の位置が同じくらいの高さになるように屈む。置いていた私の手を取ったかと思えばくるりと鮮やかに振り返った乱。可愛らしいプリーツのスカートが空気を含んでふわりと揺れる様子にすら目を細めてしまう。つい今の今まであどけない表情のまま白い頬を膨らませていたはずなのに。大きな瞳を細め不敵に笑っていた。
「もう!今日はボクがあるじさんをエスコートするんだからね!」
だから大人しくしててよ、お姫様。意地悪く持ち上げた口角をそのままに小さな顔が徐に近づいてきて。柔らかなリップ音が頬で小さく弾けたかと思えば間近にある綺麗な長い睫毛に見とれる。
「ふふふ、本当に可愛いわね」
「えー!そこは格好良いって言ってよね!」
そういうことだから、と言って顔だけ振り返る乱は完璧なウィンクを見上げた先の長兄に投げつけている。これ以上何を言っても仕方ないと肩を竦めた一期の口は一文字に引き結ばれていて。それでも、下ろした肩からは幾分か力が抜けていることが分かりほんの少しだけ安堵していた。
***
へんてこな街。それは最初にこの場所を訪れた時から微塵も変わらない感想だった。昔ながらの奥ゆかしさを感じる建物の見た目をしているのに、内蔵されているのは近代の科学たち。そんな建物が立ち並ぶ通りを、和服を纏うものもあれば洋服を着こなして颯爽と歩くものもいる。一気に時代が加速し日本に西洋文化が雪崩れ込んできた時代もあったというけれど、此処はその時代とは全く異なるものだ。過去の人々が作り上げその時々に合わせて変化させてきたのではない。此処は時の政府に所属する科学者たちが作った実験成果の集合体。この街は刀剣男士たちが戦いの喧騒を忘れるための避暑地などと言われているけれど、全体を覆っている垂れ幕を一度捲ってみれば人間のように娯楽を経験させることで感受性が高まるのか否かというデータを集める場所だ。現世でもなく、常世でもないこの場所は所詮政府が作ったものでしかない。我等が愛しき本丸も、その一部にすぎなくて。本丸が存在するあの空間を保つ役目を審神者が担っているとはいえ、空間という器そのものを生み出したのは審神者ではない。数多に居る審神者と審神者が呼んだ刀剣男士たちが住まうその器を作り出しているのは、他でもない時の政府なのである。本丸の数だけある器やこの街と同様に、遠征先や演練場所も政府の研究員たちの努力の結晶だ。こんな曖昧な世界に、私たちは存在している。それを意識しているものが一体どれだけ居るのだろう。どこもかしこも見渡す限り、審神者と審神者が呼んだ各々の刀剣男士たちがひしめいている。誰も彼も皆が楽しそうにへんてこな街に馴染んでいた。どこを見渡したとしても、政府の人間たちはこの場所に居ない。その理由は彼等が審神者とも刀剣男士とも違う存在だからだろう。その存在は異質なものとなって景観を乱す。この空間は自らが作ったものだというのに、彼等はこの場所には馴染まない。馴染もうとしない、という方が正しいだろうか。時の政府の研究者たちは優秀だった。あらゆるものを想像し、これまでに沢山生み出してきた。歴史修正主義者と戦うために、あるいは刀剣男士と審神者を強くするために。己が持つ探究心と技術力を全て注ぎ込んでいる。彼等は非道く優秀だった。時の政府に所属する人間は己が創造したものに馴染もうとはしない。彼等は自分たちの努力の結果を絶対に自分自身で利用しない。これまで一度たりとも曖昧な空間や朧げな世界に身を投じることは絶対にしなかった。彼等は常に研究者であり創造する側であることを忘れないのだろう。この世界に身を投じ、利用するのは審神者と刀剣男士。そして、こんのすけと政府が用意した商売人たちだけだ。作ったものを運用するのは生み出したものたち本人ではない。政府が生み出した研究結果に不都合がないか、不具合がないかを確かめるのはいつだって審神者や刀剣男士に課せられた役目だった。私たちはこの世界に身を投じ、馴染むことで彼等の研究が完璧であることを日毎に立証し続けている。それが時の政府と私たちの間に成り立つ関係性とでもいえば良いだろうか。作るものと付き従うもの。私たちは決して相入れない。
「はい、あるじさん。あーん」
可愛く小首を傾げる姿に、思わず溢れそうになった声をぐっと我慢する。差し出された長いスプーンに大人しく座る抹茶アイスと白玉を有難くいただけば、満足そうに笑う乱が本当に可愛い。
「あるじさん、美味しい?」
「ええ、乱が食べさせてくれたからとっても美味しいわ」
「ふふふ、あるじさんってばー」
本日は、週に一度の刀剣感謝デーだ。これは我が本丸で独自に行っている施策の一つで、その週に誉を取ったものたちでくじ引きをしてもらい当たった一振のみに私が『なんでもお願いを叶えてくれる券』を贈呈する。券は一枚だから、見事手に入れた刀剣男士は一つだけ私にお願い事をして良いというもの。我が本丸の刀剣男士たるもの喉から手が出るほど欲しいその栄誉ある券を今週ゲットしたのは、乱藤四郎。まだまだ始まったばかりの刀剣感謝デーという施策は、各々があれこれと考えて私におねだりしてきたけれど、そのどれも本丸内で済むことだった。私自らがお願いを叶えますよ券を大事そうに胸の前で抱く乱は、はにかんだ笑みを浮かべながら言った。ボク、あるじさんと一日デートしたいな!と。あまりにも可愛いお願い事を聞いて、二つ返事で快諾した私を見上げると乱はちかちかとするような眩い笑顔をこれでもかと溢していた。他の子たちがそんな選択肢があったのかと拳を床に叩きつけたのには笑ってしまったけれど。何がなんでもついて行こうとするやたらと心配性な長兄も、顔を覆って畳を転がり回る加州と長谷部の姿も十分可愛くて思わず撫で回してしまった。でも、飛び切り嬉しそうに笑う乱がやっぱり可愛いと思ってしまうから。一緒に可愛い格好をしようねと大きな瞳を輝かせる様子に目を細めていた。和スイーツを取り扱うカフェは大変な盛況っぷりを見せており、客足はいつまでも絶えない。温かいほうじ茶をゆっくり飲む私の前には何もなく、頼んだ抹茶白玉パフェを一緒に食べたいとおねだりする乱に言われるがまま一つのスプーンで中身を分け合った。広すぎず、かといって狭すぎない店内は程よく見渡せる。喧騒の中に居ても、店内の隅に腰を下ろした私たちの間を流れる時間はゆったりとしていた。自分が食べるよりも私の方へスプーンを向けることが多かった乱はやがて美味しかった!という元気な声を出しながら手に持っていた長いスプーンを空の容器に置く。そっと置いたもののガラスの容器の中ではからん、と小気味良い音が響いている。真っ白のクリームと抹茶のアイスが混ざり合い、透明だったはずの容器は薄緑色の模様で着飾っていた。ふと、目が合って。言葉なく目を細めると乱はどこか嬉しそうに美しい碧色が嵌った大きな瞳をやんわりと緩めた。暖かいなと思う。自分の内側がほわりと和らぐような感覚を同時に感じながらそのまま見つめていると、乱は徐に両手を伸ばしてくる。小さな手がテーブルの上で組んでいた私の手に触れたかと思えば今度は手の甲を包み込まれて。首を傾げる私には何も言わないまま、固い皮膚を持った乱の手はそのまま覆っていた私の手を柔く解き内側を暴くように倒していく。オレンジの照明の下に晒された手の平は、色素を落っことしてしまったような白い皮膚がそのほとんどを占めている。引き攣りを緩くなぞっていく指の様子を私は変わらない表情で見ていた。
「聞いても良い?」
こてり、と首を傾げる乱にやんわりと笑って続きを促す。
「じゃあ、まずは在り来たりな質問だけど。これってどうしたの?」
こんな風になっちゃうくらいだもん、かなり痛かったんじゃない?なんて言われてしまえばそうねえ、と僅かに目を細めてしまう。なんと答えようかと思案する私を見上げる乱は、柔く笑った。
「ボクは聞いても良いと言われただけだから、あるじさんは無理に答えなくても良いよ」
乱は兄弟たちと仕掛けたいたずらが気づかれてしまった時に良くする挑戦的な瞳を浮かべていた。見目はこんなにも愛らしいのに、中に宿るのは神様だというから驚いてしまう。全知全能の神とは言わずとも、子供の姿を象った刀剣の神様は審神者を捻り潰すことなんて簡単であろう。そうしないのは数多の刀剣男士たちが己を呼んだ審神者という存在を愛いているからだと知っている。
「この傷はね、大切な子たちを撫ですぎてツルツルになったのよ」
思ってもみなかった答えだったのか、乱は大きな瞳をぱちぱちと瞬かせふふふと笑みを溢した。
「そっかあ。じゃあ、もっとツルツルになってもらわなきゃね!」
私の両手を合わせ、その上から覆った自分の手の平をまるで祈るように見つめる。乱、と名前を呼んで徐に立ち上がるのは私。椅子に腰掛けたままの隣へと並べば小さな体をふわりと抱き締める。乱は応えるように細長い腕を背に回し頬を擦り寄せてきて。可愛い子。そんなことを思いながら。広すぎずかといって狭すぎない店内の奥に居る私たちに目を留めるものは誰も居なかった。
***
審神者とデートするためにやってきた街で、大好きな主と二人きりの時間を過ごすのは照れ臭くもありそれでいてどうしようもないほどの愛おしさが乱の中で膨らんでいった。初めてのデートは譲るから俺が主をいっぱい可愛くする!と声を上げた加州の宣言通りに目の前の審神者はとびっきりのおめかしをしている。乱と姉妹コーデにしておいたよ、と加州に促されて登場した審神者の姿を見れば自分の顔が緩んでしまうのは嫌でも分かってしまうのだった。審神者と肩を並べ、はぐれないようにと手を繋いでゆったり歩く。街の中は当然ながら他本丸の審神者と刀剣男士たちで溢れ返っていた。なぜか目で追ってしまうのは、自分ではない乱藤四郎の姿。そのどれもが満面の笑みを浮かべ主であろうその人に抱き着いたり手を引いたりしている。楽しそうだ。そして、己を呼び寄せた審神者を愛しているのだろうと一目で分かる。自分もあんな顔で主を見上げているのだろうか。まだまだ日は高い。乱は駆け出すこともなく、これといって当てもなく審神者と手を繋ぎゆったりと街を見て回った。隣に並ぶ主が喋るよりも乱の方が口を開く回数は多いものの、乱が話し掛けると甘やかに細めた美しい瞳を必ずこちらに向けながら丁寧に言葉を紡いでいく。自分たちを心から愛してくれていると分かるその綺麗な瞳が、乱は大好きだった。
この街の入口と出口はイコールだ。言葉の通り、入ってきた場所から出て行く。これがこの街の当たり前なのだから、その事実に興味を示すものなど当然居ない。ところが乱はこの街へ来て早々に主を見上げてねだったのだ。この街の反対側に行ってみたい、と。審神者がちらりと見遣れば乱はいつも通り朗らかに笑っている。純粋な好奇心だろうか。何にせよ断る理由もなかった。
「うわー綺麗!」
ここが境目だとでも主張するかのようにそびえ立つ壁は審神者の腰辺りの高さで鎮座している。ご丁寧に手すりまでついているそれに駆け寄り、手すりへと体を擦りつけた乱は前のめりになって輝く青を見つめた。すん、と互いに深く息を吸うと潮の香りがする。こんなところまでご丁寧に研究成果を発揮していることを改めて知った審神者は呆れ顔をした。潮の香り、磯の香りと称されるその匂いは所詮海の中に眠る死の匂いだ。作り出した存在に抜かりなく生を感じさせるものを埋め込もうとする精神には執着すら感じる。主は深く息を吐き出すと、乱の丸い頭を撫でた。
「反対側には、誰も触れない海があるだけよ」
「確かに、この下へ続く道はなさそうだね」
壁の奥に広がる景色を見下ろした乱は納得したというように頷いた。境目のように立つ壁から先は崖。果てしない海はすぐ近くに見えながら自分たちが居る場所よりもずっと遠いところに存在している。なぜ街の入口の反対側に海があるのかは分からない。生と死を同時に孕んでいる海がなぜ作られたのかもまた不明だった。入口には喧騒な街並が広がっているのにその奥へと進むほどにざわめきは掻き消え波の音だけが支配する空間。やっぱり、へんてこでちぐはぐな街なのだ。
「ねえ、あるじさん」
降り注ぐ太陽の光を映した瞳は海から逸れていて、乱はくるりと振り返り手すりに背を預ける。
「ボクたちは、どうして顕現したんだと思う?」
いつも通りの表情を浮かべて、やんわりとした笑みすらも見せる乱に審神者は思わずはっとした。
「こんな曖昧な世界に、どうしてボクたちが呼ばれたんだろうね」
乱は真っ直ぐに少し高いところにある主の顔を見上げていた。ほんの僅かに眉を下げて。乱が言う『どうして』に主は思い当たるものがあった。どうして、どうして私は此処に居るのだろう。
「なーんて、ごめんなさい。困らせちゃった」
完璧なウィンクを投げてくる乱に、審神者は固く引き結んだ口をどんな風に開けたら良いのか分からなかった。何か言わなきゃと思うのに、一体何を言えば良いのかすら分からないというべきだろうか。だって、そんなのは審神者自身が知りたかったことだ。ぐるぐると思考は己の中を回るのに、この真っ直ぐに向けられた瞳に何を言ってあげたら良いのか分からない。嘘をつくなら、出来るだけ真実に沿った話の中に黒を混ぜて手放してあげれば良い。そうやって誤魔化すことなんて、きっと簡単なのに。それでも、いつものように笑みを浮かべることすら出来なくて。まるでこの朧の世界にたった一人きりになってしまったかのような気持ちになった。そんな主の表情を見てか、乱は審神者の手を取り握る。内側へ這わせた指が手の平を覆う引き攣りを撫でた。
「あるじさん、愛って難しいね」
次に紡がれた言葉は、全く異なる方向へと向いているようにも思うのに。多分、そうではない。
「愛は、与えるだけが全てじゃないでしょう?」
現に、ボクたちはあるじさんへ何か目に見えるものをあげられているわけじゃないよね。でもさ、ボクたちを呼んでその何もかもで包み込んでくれるあるじさんをボクたちは心から愛しているんだ。こんな姿になってもボクたちは刀だからね。奪うことでしかあるじさんを守ってあげられない。綺麗な思いだけで、あるじさんのこの手の平を握ることが出来ない。それは時に酷くボクたちを傷つけるけれど、そんなボクたちをあるじさんはいつも笑って、抱き締めてくれるでしょう。
「でもね、あるじさんがボクたちに何でも与えているわけではないことを知っているよ」
あるじさんは時々どこか遠いところを見つめて、全てを与えないことでボクたちを守ってくれているってちゃんと知っているんだ。ボクや兄弟たちは子供の姿を象っているけれど、それと同時にボクたちは何も知らない無垢な子供の振りをしてあるじさんを愛いている。あるじさんなりの方法でボクたちを愛してくれるように、互いに何もかもを与えられないと分かってはいるから。
「でもね、これだけは知っていて欲しいんだ」
あなたがどんな真実に近い嘘を吐いていたとしても。ボクらはちゃんとあなたの愛を感じているし、あなたのことを愛しているよ。それはこの先何があっても変わらないし、絶対に変えないよ。長い時を刻み続ける九十九神っていうボクらは、変わることが出来ないから。だから、だからね。
「いつの日か、必要になったら何だって話して欲しいんだ」
あなたからどんな話を聞いたって、ボクらはあなたのことを絶対嫌いになったりしない。だって、あなたはボクらの何もかもを許して守って愛してくれているんだから。あなたが言葉にしなくとも、あなたがボクらに向ける大きな想いが愛であることを知っているよ。目は口ほどに物を言うなんて言うでしょう?あなたの瞳は何もかもを想っているようでいて、決してそうじゃないよね。今はボクらを、あなたが呼んだ刀剣男士たちを心から愛しんでいることをボクたちはちゃんと分かっているよ。何があっても絶対にあなたの手を離さないし、あなたを一人ぼっちにはしないよ。
「ボクたちがあるじさんの傍で生きて行くように、あるじさんも同じなんだよ」
あなたが生きる場所はボクたちの本丸だ。そうでしょう、あるじさん。微笑む乱は主を見上げる。
「……ええ、そう。……そうよ、乱が言う通りよ」
相変わらずに握られたままの手を審神者はやんわりと握り返す。見目は愛らしい子供の姿を模しているというのに、その小さな手は固く節くれ立っている。乱が言うように、彼等は敏いから無垢な子供の振りをして笑ってくれているけれど。その固い手の平は己の依り代である自身の刀身を握り場合によっては命を狩り取っていく。審神者は正しくそれを知っていたから、彼等がその事実に傷つく心が和らぐようにと祈っていた。彼女は呼び寄せた子たちを拒絶もせず否定もしない。この身が擦り切れ朽ち果てるまで、最期のその時まで彼等を愛すると決めていた。そしてそれは彼等も同じだという。主はぐっと奥歯を噛み締めて、滲んだ視界が決壊しないように堪える。
「あなたたちが私を愛してくれる限り、私は本丸で生きていくわ」
あなたたちが傍に居てくれる限り、自分が一体何者であったとしても私として在り続けたい。
「ふふふ、ボクたちずーっと一緒だね」
「ええ、そうよ。ずっと一緒」
こんな曖昧な世界で、審神者と刀剣男士は共に生きていく。生き抜いた先に、いつの日か何もかもを彼等に話す時が来るのだろうか。出来るなら、そんな日は一生来なければ良いと思ってしまうけど。互いに全てを与えられなくとも、互いを愛していることを知っているし信じられるから。
「あるじさん、愛してるよ」
「ええ。私も愛してるわ、乱」
ふふふ、とはにかんで笑みを浮かべる乱はちかちかと眩く思うような挑戦的な瞳で主を見上げた。
「帰ったらいち兄にも言ってあげてね?」
ぱちり、と弾けるような音が聞こえる気がした。完璧なウィンクを受け取って可愛いわねと笑う。