十八、お兄ちゃんだって甘えたい!
| 鯰尾藤四郎
きゃあきゃあともわちゃわちゃともする声が聞こえて今日も元気だなと足取り軽く部屋を覗く。
「あらあら、どうしたの?」
「あっ主〜〜〜〜〜〜‼」
がばりと突撃してくる体を受け止めると、大きな瞳をうるうるさせて見上げてくる鯰尾藤四郎。
「んー?どうしたの?」
見たところ細身かと思いきや、私の体を抱き竦める腕の力は思っているよりもずっと強い。こんなに可愛くても男の子なのねと、もにょもにょ緩んでしまう唇を尖らせることで誤魔化した。
「ああ〜〜鯰尾にい!だめ〜〜〜」
突撃隊長よろしく勢い良く飛び掛かってきた乱は私と鯰尾の間に自身を捩じ込もうとしている。
「乱はいつも主に引っ付いてるんだから、たまにくらい俺に譲ってくださいよ!」
「だーめーーーーー‼」
いやいやとしきりに頭を横に振る乱と、ますます頑なに腕へ力を入れてくる鯰尾。もう完全に口のもにょもにょが隠しきれない私はどちらも可愛すぎてなんでも良くなってきてしまった。いいえ、違うわね。決してなんでも良くはないのよ!目の前で繰り広げられる鯰尾と乱の可愛らしいキャットファイトにおろおろする五虎退も可愛い…ううう。またかとでも言わんばかりの呆れた表情を浮かべる厚といつも通りの涼やかな骨喰も可愛いの!…ううう。このままだと私の顔面が完全に泥沼になってしまうことは考えるまでもなくて。そうして、本来の目的を思い出した。
「鯰尾、何かあったんじゃないの?」
「あ!そう!そうなんだよ主!」
聞いてくださいよお、と甘えた声を出しながらぎゅうぎゅう抱き締めてくる鯰尾の丸い頭を撫でるとぴょこりと起き上がっている触覚が心なしかびゅんびゅんしているような気がする。可愛い。うちの子たちの可愛さを目の当たりにするとすぐふにゃふにゃと蕩けそうになってしまう顔をどうにか隠そうと片手で覆う。って違う違う!何か用件があったのなら先にそっちを聞いてあげないと、と深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けて。その間にも割り入ろうとする乱の頭を撫でた。
「どうしたの?」
首を傾げれば顔を上げた先に鯰尾の大きな瞳。そのまま見つめていると自分が見えそうだと思う。
「目にまつ毛が入ってしまって、痛いから主見てくださいよお」
「それは早く言わないと、」
変わらずにぐりぐりと攻撃している乱は、僅かな隙間を求めて頭から突っ込んでこようとしている。普段はふわふわキラキラなのに、腕の筋肉を私に褒めて欲しいがためにお姫様抱っこを無邪気にやることもあれば、今まさに綺麗な髪を振り乱してまで頭を捻じ込もうとしてきたりもする。乱の隠れ男前具合には破顔を禁じ得ない。うんうん、可愛い。乱はいつだって可愛くて最高なの。頭攻撃は全体的に鯰尾が受けているけれど、彼は痛がる素ぶりを微塵も見せないままキラキラした目で私を見ていた。乱の良すぎる勢いをなんとか抑えようと考えて、その頭をゆっくり撫でる。
「うーん、まつ毛もゴミもなさそうに見えるけど、まだ痛いの?」
「ええー、もっと良く見てください」
鼻先が触れ合いそうなほど、近づいた綺麗な顔。肌のキメが細かすぎる…なにかしらこの子は。冷静さを装いながらよくよく覗いてみたけれど、やっぱり異物は見つけられなかった。鯰尾の睫毛がとっても長いことを知れたのは良かったのかも?首を捻っていれば突然ぶふっと吹き出す声。
「ふふふ、主って本当に無防備ですよね」
にんまり笑う彼に、あまり頭がついていかず私は首を傾げるばかりだった。
「主がいーっぱい見つめてくれたので、もうゴミはなくなったみたいです!」
ついでに主のおっぱいが俺を慰めてくれたのでもう平気です!なんて言う眩しい笑顔を見下ろす。
「ああー主って本当に可愛いですよね!」
次の瞬間には、目の前に居たはずの鯰尾の姿はなくなっていて。何事かと目を瞬かせれば。
「……あら?鯰尾?」
艶々とした黒髪の代わりに現れたのは、小さな五虎退の頼もしい後ろ姿だった。
「あるじさまは、僕がお守りします!」
なぜかそのまま畳に腰を落ち着ける形にさせられ、やんややんやと膝に登ってきたもふもふの子虎たちをぽふぽふ撫でていく。傍に控えた厚と骨喰を見ると、生真面目な顔の二振が深く頷いた。
「あいたたたたた!乱!やめてくださいよお〜〜」
「鯰尾にい〜〜〜〜〜〜‼お覚悟‼」
細い腕で粟田口部屋前の廊下まで投げ飛ばされた鯰尾は、そのまま乱から技を掛けられている。体格的には鯰尾の方が大きいから、どうしてもじゃれ合っているようにしか見えなくて。あれでちゃんとお兄ちゃんしてるのよねえ。可愛いのは君なのに、とはあえて言ってあげないけれど。