二十、善見城
| 粟田口兄弟
大きな鍋にたっぷりと張ったお湯で一定時間茹で上げた生地が透明になると、わあと楽しげな声が幾重にも上がる。そろそろかなと呟いたのを合図に、ぱたぱたと駆けて行く姿に目を細めた。
「あるじさん!お水とーっても冷たくなってるよ!」
「ああ……虎さんは入ってきちゃだめです……」
これまた大きなボールに溜めた冷水に細い指先を沈めた乱が元気に声を上げる中、厨から漂う匂いを嗅ぎつけてきたのか子虎が一匹迷い込んで来て。それを見つけた五虎退が慌てて抱き上げた。鍋の中で浮いた透明団子が冷水に飛び込んでいくのを待ちきれないとでもいうような表情の乱が兎のように小さく跳ねていて。最初に結ってあげた髪紐が緩かったのかするりと解けてしまった。
「ああーせっかくあるじさんに結んでもらったのに!」
「ほら、結い直してやる」
「薬研!可愛くしてよね!」
「はいはい」
淡く目を細める薬研が乱の髪を直しながらこちらに向かって大丈夫かと首を傾げるから。大丈夫よ、と頷いて。鍋を持ち上げれば二つ並んだボールをそれぞれ押さえる前田と平野。それぞれにお礼を言いながら小さな手に掛けないよう注意しつつ鍋を傾けると透明団子は勢い良く冷水に飛び込んでいった。二つのボールの底に沢山の団子が沈んでいる様を全員で覗き込むとこりゃあ絶対旨いな、と頷く薬研に笑みを浮かべてしまう。うんうん、と頷く私たちを見る短刀四振は嬉しそうに頬を緩ませていて。しばらく水に預けていた生地を確かめれば、熱は取れたようだった。
「では作ったものの特権で味見をします!」
やったーと飛び上がった乱は突撃隊長よろしく雛鳥のように可愛い口を開ける。あるじさん!あーん!はい、あーん。洗った指先で餡子ぎっしりの水饅頭を小さな口の中へと滑り込ませると、まろい頬を膨らませながらむぐむぐと口を動かす度に乱の瞳が蕩けていく。美味しい!という大きな声に待ちきれなかった他の子たちが我先にと口を開けてねだるのが可愛くて仕方なかった。
「大将、俺っちも」
「ふふふ、あーん」
差し出した水饅頭をつるりと口に含み、ちょっとした置き土産のつもりなのか指先にちゅっと音を立てて離れていく薬研に思わず照れてしまうことを許して欲しい。手で熱い顔を扇いでおく。
「大将は本当に可愛いな」
はははと快活に笑う薬研は、向かい合ったまま私の口元へ冷たい水饅頭を咥えさせた。もちもち食感の透明団子を口内で咀嚼すると意識なんてしなくともあっという間に頬が緩んでしまうから。
「うーん、美味しい!」
味や食感が気に入ったのかきゃあきゃあとはしゃぐ短刀たちと一緒に張り切ってお皿へ飾りつけし、本日のおやつは完成した。あとは、広場で待つ皆へお披露目するだけだ。さあ持って行きましょうかと声を掛ければ瞳を輝かせる表情に微笑む。お盆に乗せた皿を慎重に運ぶ後ろ姿と小さな彼等を褒める沢山の声にじわりと胸が満たされていく。こんな何気ない日々が愛しくて仕方がないのだと目を細めていれば、そんな私を見つけた薬研が口角を上げて頭を撫でてきたのだった。