二十三、本気とやる気
| 鶴丸国永、鶯丸
「さあて、もう逃げられないな?」
「……ええ、そのようね」
にやりと意地悪く笑う鶴丸を見て私は深い息を吐き出す。そうして、向かい合った鶴丸の肩越しから見える鶯丸と目線が合えば眉を下げて笑うと何を言わんとするのかが分かったのだろう。
「ごめんね、鶯丸……」
「だめだ!俺が必ず助ける!」
「……ううん。……あなたは生きて……」
眉を下げながら懸命に笑みを浮かべると、いつも穏やかに微笑む鶯丸の顔が悲痛そうに歪んだ。
「大丈夫だ、愛しいきみは丁重に扱うぜ」
私を見下ろす鶴丸の黄金の瞳は愛おしげに細まり、近づいて来て。私はゆっくりと目を閉じる。
「行くな、主ぃいいいい‼」
暗転した世界の中で崩れ落ちる鶯丸の気配を感じながら、伸ばされた鶴丸の手の平の熱を感じた。
「……いつも思うけどさあ、鶴丸さんと鶯丸さん本気だよね」
「あれは何かドラマの真似なのか?」
「さあ?あの子たちがいつもああだからつい付き合っちゃうのよねえ」
あるじさーん待ってたよー!とハートを飛ばしながら抱きついてきた乱と、お疲れさんと麦茶を渡してくれる厚の頭を撫でる。ありがとうと受け取った麦茶を一気に飲み干すと、もう一杯お注ぎしましょうか?という前田の声。その気遣いをありがたく頂戴することにして、更にもう一杯。傾けていたグラスの位置を元に戻し、ふああと大きく息を吐くと歌仙特製水羊羹を差し出してくれる骨喰に笑い掛けてから素直にもぐもぐと頬張った。さすが歌仙、今日も甘味が美味しい。
「おいこら心外だぞ主!てっきりきみもノリノリなんだと思ってたのに!」
「ええ……いつも雰囲気に乗ってるだけよー。あなたたちが随分と楽しそうだから」
やりたいものたちを募ってやっていたのは影踏み。さっきまでの茶番は鶴丸と鶯丸のお芝居にただ乗っかっていただけ。鶴丸に関してはまあ分からないでもないけれど、意外と鶯丸がその気になっているので大体最後まで残って一緒にあの茶番をする。影踏みが終盤に近づくと捕まった組が集まる縁側に観戦だけする子が増えることを知っている。考えるまでもなくあの茶番見たさなのだろうとは思っていた。そして私が捕まるとちらほらと解散し始める子たちが出てくることも。
「俺はもう疲れた……」
「鶯丸は主が捕まるとすぐそれだ!」
そう、私が捕まるとそれまでの雰囲気が嘘のように鶯丸が一気にやる気を失う。ええ〜と鶴丸が幾ら駄々をこねても一度失ったやる気は戻ってこないらしい。これも最早恒例となってしまっているから皆の興味も少しずつ逸れてきている。そんな雰囲気に笑って、私は言ってしまうのだ。
「そろそろあなたたちも休憩したらどう?」
「主も気が利いたことを言うな」
嬉々として縁側へ歩く鶯丸をじとりと見る鶴丸に思わず苦笑してしまうのは仕方がないことだと思う。あとで撫でてあげよう、なんて考えながら甘えてきた短刀たちの話し相手をするのだった。