二十五、兼さんはアイドル

| 和泉守兼定、堀川国広

「あ、兼さーん!」
「んあ?」

 オレの方を見ている国広がおーいと手を振っている。それにひらりと手を振り返せば、国広よりも少しだけ背の高い主が国広の隣で負けじと手を振ってきた。ったく、何してんだあいつらは。

「兼さーん!私も!私にも手振ってー」
「ちょっと主さん!兼さんは僕に手振ってるんだから!」
「ええーなんでよ!兼さーん!ウィンクしてウィンク!」
「だめだよ!兼さん!僕にウィンクして!」

肩を並べながらぶんぶん勢い良く手を振ってきたかと思えば、今度は張り合うようにぴょんぴょん跳ねていて。兼さん!カネサン!と鳴き声みてえに騒いでいる様子を遠目に見て口元が緩む。

「兼さん!私には投げキッス!ちゅー!」
「だめ!やめてよ主さん!兼さんの投げキッスなんてだめです!」
「何よ堀川!私だって兼さんのファンサービス欲しい!ずるい!」
「そんなこと言って、主さんが兼さんのこと甘やかしてるの知ってるんだからね!」

この前兼さんにお饅頭こっそり味見させてたでしょ!僕に内緒って言って!えええ?あの時あなた居なかったじゃない!なんで知ってるのよ!僕の情報網をなめてもらっちゃ困るなあ。ふん!あなただって甘口カレーを兼さんが好きなこと知っててちょっと多めによそってたでしょ!私は知ってますからね!はっ!なぜそのことを!主様にはお見通しよ!誰にもバレてないと思ってたのに!やかましいばかりの主と国広の言い合いは終わる様子がなくて。兼さん!かねさん!カネサン!と止まらない俺にまつわるエピソードの暴露大会を聞けば顔がどんどん赤くなっていく。

「ああ〜まーた始まったの?」
「ああ〜主と堀川のカネサン自慢?」

縁側に座っていた加州と大和守のそんな声まで聞けば、沸き上がる熱気が最高潮に達していた。

「お〜〜ま〜〜え〜〜らぁ〜〜〜〜〜」

そんな俺の怒鳴り声が届いたのか主と堀川は顔をにんまりと見合わせて。ふふふ、あははと笑う。

「何笑ってんだぁ〜〜‼」
「きゃー逃げましょ!」
「あははは!主さんこっち!」

ぎゅっと指を絡めたかと思えば、あははと軽快な笑い声を上げて脱兎の如く走り出す。

「待てこら〜〜〜〜〜〜〜‼」
「「あっはははは!」」

その背中を追ってオレも走り出した。

「ああ〜始まったよ」
「ああ〜カネサン鬼ごっこだね」

そんな風に笑う加州と大和守には気づかずに。そうして突然始まった鬼ごっこは主と国広に遭遇した粟田口の短刀を手始めにやがて本丸全体を巻き込んだ全力の鬼ごっこと化していくのだった。