二十八、厩の攻防

| 鯰尾藤四郎、骨喰藤四郎

「まだそいつが苦手なのか、兄弟」
「うう……だってさあ、いくら言っても聞いてくれな、う、うわああああやめろおおお」

 交換日記の文面を考えるのがなんだか嫌で歩いていれば、物凄く悲痛な叫び声が聞こえてきて。

「……うっ、……主……うっ、うっうう……」

一体どうしたのかと厩を覗き込むように顔を出すと、大きな瞳に涙を浮かべてぐすぐすと泣いているのは鯰尾だった。何を聞くでもなくその光景を見ていればそっと察することが出来るから。

「骨喰、いつもこんな感じなの……?」
「ああ、そうだ」
「主いいい今の俺を見ないでー‼」

大粒の涙を流していた鯰尾は両手で顔を覆う。むしゃむしゃされている頭の触覚が可哀想だから、馬の頬を撫でてそっと離させた。真顔の骨喰も物凄い勢いで馬に舐められたのか顔も髪もべったりと光っていて。タオルで拭いながら思わずなるほど、と納得する。馬当番をお願いすると鯰尾が肩を落とす理由がようやく分かった。まあ、まさかこんな理由だとは思いもしなかったけれど。他の子たちには大人しくお世話されているはずなのにな、と首を傾げながら馬たちを見てしまう。

「この子たちが大好きなのは分かるけれど、大人しくしてあげてちょうだい」

ゆったりと引き締まった頬を撫でれば、煌々と輝く瞳に私が映っている。ぱちぱちと瞬きをして体を寄せてくるから肩をくっつけた。この子たちに意地悪しないであげてね、なんて呟きながら。

「主相手にはすごく大人しくなるんですね」
「うーん、いつも大人しい子たちなのにねえ……」

吸い寄せられるように手を伸ばした骨喰がそっと馬の鼻先を撫で遣れば大人しくされるがままで。

「……大人しい」
「ほ、ほんとだ……ベタベタにならない兄弟初めて見た……」

そう呟く鯰尾も恐る恐る手を伸ばして。そのまま、そっと添えた手の平をゆっくり滑らせていく。

「ほあああ……大人しい……!」
「ふふふ、良かったわね」
「主!すごいですよ!やりました!」
「主はすごいな」

大きな瞳が溢れそうなほどに見開いてキラキラと輝かせた鯰尾と、澄ました真顔のまま頷く骨喰。二振とも抵抗なく馬を撫でられるようになったところまで見届けて今度こそ自室へ戻ろうとする。

「それじゃあ、私は自室に居るから何かあったら言うのよ?」
「はーい!ありがとうございます!」
「助かった」
「あはは、お役に立てて良かったわ」

そう時間は経っていないけど。一期を待たせちゃったかしらと思いながら厩から遠ざかる途中で。

「ぁっ、ああああああ‼やめろおおおおお‼」

外の空気を勢い良く引き裂くような大きな悲鳴を聞きながら一人で思い切り吹き出してしまった。