四、下拵え
| 加州清光、大和守安定
廊下を歩いていれば不意に自分を呼ぶ声が聞こえたから、開いている襖の端からひょこりと顔を出してみる。大きな座卓の上で突っ伏している子が気怠げな声色のまま鳴き声のように私のことを呼んでいるのを見てしまえば、思わず苦笑してしまった。座卓の上の山へと視線を移し、これは手伝った方が良いかしらと思案して。お昼ご飯が済んだ午後最初の時間。特に急ぎの用もないし、何よりこういうことは楽しいから好き。まあ、この子たちと何かをするのが楽しいのね。
「はいはい、主が来たわよー」
「やったー!さっすが俺の主!」
「ええ、主本当に来ちゃうんだ…」
勢い良く顔を上げキラキラと眩い笑顔を見せる加州と、驚きつつも呆れたように笑うのは大和守。対照的な赤と青の二振に片手を挙げて近づく。何をしているのかと思えばさやえんどうの筋取り。
「大収穫ねー」
「そー、だから主も手伝って」
「お安い御用よ」
隣に腰を下ろせば甘えたように肩に擦り寄ってくる加州の爪に色はついていない。たまにはオフして爪を休ませてあげないとね!と笑う彼にとても感心した。彼は私とは比べものにもならないくらい彼は美意識が高い。政府に頼んだファッション雑誌を乱と熱心に見る姿に可愛いなと思うし何か実践する度に私の所へ見せに来てくれるのが嬉しい。うんうん、今日も本丸は平和である。
「主すごく楽しそうだね」
「うん?今日もうちの子たちは可愛いなーとね」
「え、俺可愛い?」
「ええ、もちろん。加州も可愛いし、大和守も可愛いわよ」
「えーこいつもー?」
「なんだよ加州、僕が可愛くちゃいけないのかよ」
「べっつにー」
つんと唇を突き出したまま半目になる加州。あはは、ぶさいくで可愛い。こんなことを言ったらきっと怒ってしまうだろうから絶対に言えないけれど。でもすごく可愛いからこの顔好きだなあ。
「はいはい、このさやえんどうは全部使うの?」
「あ、ううん、半分は夕食で半分は明日だけど、夕飯までに全部剥いてって」
「あらー、じゃあ結構頑張らないとね」
「そうなの!だから主も頑張って!」
「じゃあ皆で競争しましょうか。たくさん剥いた人が勝ちよ」
「よーし!俺が一番!」
「僕が一番だぞー」
「ふふふ、私はもう二十個剥きました!」
「「ええっ⁉」」
負けず嫌いだから、慌てたようにわたわたと山盛りのさやえんどうへと手を伸ばす二振に笑った。