朝は嫌いだ
眩しい。
そう思う感情に他意は無くて。
ただただ純粋にそう思った。
好きな人の為に。
子供故の甘さや情に流され易いのだって、いつかは消えてしまう。
音も無く、季節が変わりゆくのが当たり前のように自然と。
消えてしまう事実を身をもって知ってる事が大人の証だと言うのなら、随分薄っぺらい証だ。
大人になって大切の意味を知っても、肝心な大切なものはいつの間にか何処かに忘れ去られてる。
大人なんてそんなものだ。
だから時々、目を背けたくなる。
お前が置き去りにしたものはそれだ、と見せつけられているようで。
「…恋人か」
自分で呟いて、ははっと笑いが溢れる。
似合わない言葉だ。
俺にも、彼女にも。
コナン君に言ったことは嘘じゃない。
俺にとって何よりも優先すべきはこの国の安寧で、その為になら俺は俺自身も、彼女も利用する。
彼女が何も出来ない、何も知らない、俺に泣き縋って守られるだけの弱い女なら良かった。
それなのにあの女と来たら腹立たしいくらいに優秀で、泣いて縋る可愛げもない。
喉を迫り上がるような愛おしさと同時に、喉の奥で蠢く昏い何かが利用しろと囁く。
きっと俺には優しさの欠片も無い。
これで恋人だと宣うのだとしたら最低の恋人だ。
或いは彼女の死別したという婚約者となら、彼女は幸せになれたのかもしれない。
いや、幸せになれただろう。
「それがわかっているのに、手離せないんだよ…」
コナン君。
俺達がしてるのはお互いの幸せを願う優しい恋なんかじゃない。
お互いを利用して、そのくせお互いの欠けた心臓を恋に似た執着で埋めている。
そんな歪なものだ。
だけどそんな歪なものにもしいつか、許されるなら、名前が欲しい。
ただの紙切れだと彼女は笑うかもしれないけれど。
「君は怪我をする天才だね」
ああ。ほら。
そんな呆れた声一言で全身が甘く痺れてしまうから本当にタチが悪い。
小さく笑って振り返れば予想通り、口をへの字にして子供らしくない深い皺を眉間に刻んだ彼女が腕を組んで仁王立ちして構えている。
「そんな出血でうろうろして。幾ら血の気が多い君でも死ぬよ」
うん、と短く返す。
かなり無茶をしたのは認めるが、そうでもしなければ被害は食い止められ無かった。
そんな事を言ったらもっと怒るんだろうな。
何だか無性に、触りたい。
数歩進んで距離を縮めると、膝を折って視線を合わせる。
ぱちり、ぱちりと瞬く子供らしい丸い瞳の中で星が煌めく。
「…舞白」
膝立ちになって、抱き込む様に腕を回せば、抵抗はされなかった。
零、と不安そうな声が聞こえて、ごめん、と口にしたつもりだったけど音にはならなかった。
深く息を吸う。
潮の香りと、コンクリートの匂い。
彼女の香りと体温が腕の中にあるだけで急に頭の先から指先まで熱が巡る。
なんだか息を吸うのも久しぶりな気になる。
そんな事は考えるまでもなくないのだけど。
少し、疲れた…。
うん。
…眠い。
うん。
段々と舞白の声が遠くなる。
また忙しくなるだろうから、今の内に、触れて置きたいのに。
色々言って置きたいのに。
心配かけてごめんと、力を貸してくれてありがとうと、それと…。
「ーお休み。零」
朝は嫌いだ。
夢から醒めたら僕は透明になって、君に見えなくなってしまう。
僕は君を抱きしめる事も、好きだと伝える事も出来なくなる。
君の世界から、僕は消えてしまうのだから。
5.1 P.M.
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