銀河の中の小さな声
時よ停まれ。汝はあまりに美しい。
夕日に染まる港と海をレンズ越しにぼんやりと眺め、かしゃかしゃ、とカメラのシャッターを切る。
数回シャッターを切った所でカメラから顔を離し、今しがた撮った写真を確認する。
「うん。良い感じ」
少女―ナマエは藍色の髪を潮風に揺らしながら、満足気に呟く。
春のはじめの潮風はまだ少し冷たくて、しばらく当たっていた頬や手はすっかり冷え切っている。
ポケットから携帯を取り出し時間を見ると、フェリーの出発時間まであと1時間程だった。
此処の風景もあらかた撮ってしまったし、残りの時間をどうやって暇をつぶそうかと考えていると、こと、と足音がして隣に人が立つ。
「やぁ。君も南十字島に行くの?」
反射的に顔をあげると、赤いシャツを着た、赤い髪の少年が立っていた。
歳は自分と同じくらいだろうか。
「えっと、うん。そっちも?」
「そ。今年から向こうの高校に通うんだ。君は、島の子?」
「生まれはだけど、育ったのは本土。家、お父さん単身赴任行ってるから、お母さんと島に戻るの」
本土より治安良いからって、単純だよね、と苦笑気味に言うナマエに少年はそうなんだ、と笑う。
「君は?親の仕事の都合、とか?」
ナマエの問に、少年はううん、と首を横に振る。
「探してる人がいるんだ。あの島にいるみたいだから」
「ふーん。見つかると良いね」
「うん。けど、それだけじゃないんだ」
「へ?」
「あの島には、新しい何かが待ってる気がする。今までの僕にはない、何か…」
「今までにない、何か…?」
「あぁ」
不思議な物言いをする子だなぁ、と思いながらナマエは少年を見る。
何処か遠くを見つめている様な視線は、ナマエには見えない何かを見ているようだった。
【pipipi―】
携帯の音にはっとしたナマエは慌ててポケットから携帯を取り出す。
「うわっ…母さんからだ。私もう戻らないと。君も島に行くなら、また会えたらいいね。えっと…」
「僕はツナシ・タクト」
「―アケノ・ナマエ。じゃあ、またね。ツナシ君」
「あぁ。また」
「―やっと戻ってきた。この放浪娘」
フェリーの出航を待つ港の休憩室のソファに腰掛けていたいた女性はナマエに気付くと、むすっ、と腕を組む。
「放浪って…ちょっと探検してただけだよ」
「探検とか言って、どうせまた海とか船とか見ていいの見つけたーって写真撮ってたんでしょ?」
ナマエの母親であるサエはほら、と首から下がるカメラを指さす。
「あ」
「写真撮るのは良いけど、毎度毎度誰かさんみたいにふらふらいなくなるのは止めて欲しいわねー」
「あはは…はーい」
「で?いい写真は撮れたの?」
「うん。まぁね」
サエはそう、と目を細めて微笑む。
「あ、そういえば、同じ歳くらいの男の子に会った。その子も南十字島に行くんだって」
「へぇ。よかったわね。早速友達ができて」
「うん。でも、何か不思議な子だった」
「不思議?」
「何かよくわかんないけど、不思議な子」
「ふーん」
しばらくしてフェリー出港アナウンスが流れ、2人はフェリーに乗り込む。
「今までない、何か、か…」
―私にも、あるのかな。
ナマエは潮風を吸い込むと、目を細めて口許に小さく笑み浮かべる。
僕の泣き声は、誰にも聞こえはしない。
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