ホタルノヒカリ

君が好き。君がすき。きみがすき。


「―…」

とん、とん、とん、と子供のように揺らしている足が壁にあたる音が波の音に紛れて鳴る。
海辺に面した道路の歩道脇に腰掛けた少女は、長い藍色の髪を潮風に揺らしながら、ぼんやりと海を眺める。
茜色だった世界はもうすっかり藍色に染まりかけている。


「―此処にいたのか。探したよ、なまえ」

こつ、と小さく靴音がして、少女―なまえに1人の青年が近付く。

「今日は何かいい事でもあったかい?」

「…」

なまえは青年を振り返る事なく、変わらず海を眺めて、足を揺らしている。
青年は苦笑を零して小さく息を吐く。
この少女が“こう”なのは今に始まった事じゃない。
もう何年もだ。

15年前の“あの日”から。

「…夏の、匂いがする…」

「あぁ。そうだね。もう夏だ。お前の好きな季節だ」

「…蛍…」

「ん?」

「…蛍…見たい」

青年は目を細めて優しく微笑む。

「見れるさ。もうすぐ」

青年はなまえの髪に指を通して梳くと、そのまま肩に手を回し、自分の方へ軽く抱き寄せる。

「…」

なまえは青年の肩に頭を預けたまま、ゆっくりと目を閉じる。


―次に目を開けた時の、星の瞬く濃い藍色の空を瞼の裏にぼんやりと思い浮かべながら。

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