魔法の船

昔々、とある国の、とある海辺。
ある夜、浜辺で1人の少年と少女が出会った。
少年は一目で少女に恋をした。
少女はいわれなき罪で国を追われ行く宛もなく海辺のこの街に辿り着いたという。
少年は少女を憐れみ、話を聞いた町の人々も彼女を快く受け入れた。
穏やかな日々の中で、少女もまた少年に恋をした。

ある日少年は言った。
僕には夢がある。
いつか船乗りになってこの世界の果てまで旅をしたい、と。
だけどこの国には船が無かった。
王様が法律で禁じていたのだ。
この国の海の底には強大な力を持つ魔法使いがいて、船が1隻でも海に浮かぼうものなら何日も続く嵐を呼び、家をも飲み込む大津波を起こす。
そんな災厄が続いては国が滅びてしまうと王様は船に乗る事も、船を作る事も禁じた。
それからしばらくして、王様が御触れを出した。
それは海の底の魔法使いを倒し、彼の持つ"青の血"と呼ばれる宝を持ち帰った者の願いを1つだけ、何でも叶えるというものだった。
国中の何人もの屈強な男達が褒美に惹かれて海へと向かったが、誰1人戻らなかった。
少年は躊躇った。
だが少女は言う。
夢が叶うかもしれない。
このチャンスを逃すな。
背中を押され、意を決して少年は海の底へ向かう。

幾重もの罠を潜り抜け、少年は遂に魔法使いを倒した。
宝を持ち少年は宮殿へと向かう。
王様、お望み通り魔法使いを倒し、"青の血"を持ち帰りました。
少年が高々と掲げたのは瓶に入った煌々と輝く青色の液体だった。
宝石の様に煌めくその液体を見た王様は涙を流した。
そうして瓶を受け取ると、青色の液体を飲み干した。
私はあの魔法使いに不老不死の呪いをかけられていた。
この青の血こそ、その呪いを解く唯一の方法だったのだ。
これでやっと、この孤独から解放される。
王様は言う。
勇敢なる少年よ、約束通りお前の願いを何でも叶えよう。
少年は言った。
なら王様、僕は貴方の持つ魔法の船が欲しいです。
空を飛び、海の底までも行ける、どんな嵐が来ても沈まないという魔法の船が。
王様は頷いた。
約束だ。
私の持つ魔法の船をお前に与えよう。
だが少年よ、1つだけお前は知らなければならない。
あの船は普通のエンジンでは動かない。
特別なエンジンが必要なのだ。
そのエンジンとは、お前が愛する少女の血だ。
お前が海の果て、空の果てへと旅立つにはお前の愛する少女の血を一滴残らず注がねばならない。
それでもお前は魔法の船が欲しいか?
少年は黙り込んだ。
そうして、ややあって少年は言った。

王様、僕に魔法の船を下さい。

少年は魔法の船で旅立った。
エンジンに少女の赤い血を一滴残らず注いで。
少年は旅をした。
空の果て、海の果て。
世界中の全てを見て回った。

「…それはハッピーエンドなのか?」
「少年は気付くんです。あんなにも新しく不思議なもので溢れていると思っていた世界は少年のいた国と大差なかった」

愛する少女を殺してまで旅をする意味はあったのか、と。
少年は哀しんだ。

「傲慢だな」
「だけど少女はそれでも幸せだったんです」


君は、永遠に私だけのもの。

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