望み

お前はきっとどの子供よりも、僕に似ている。
悲しいほどに。
愛おしいほどに。
僕がかつて人らしくあろうとするのを拒んだ本能が形を成したのがお前なのだろう。
檻の内側から喚き散らして、手当たり次第に爪を立てて。
自分で壊したものをまるでそれが所有の証のように抱きしめている。
その醜い執着を"愛"だと錯覚して、空虚な心臓を埋めた気でいる。
だからお前も、彼女に恋をしたんだ。

その瞳に燃える太陽に。

「ー僕からの贈り物は気に入ったか?枢」

いっそ、何も思い出さずにいたかった。
全てを忘れたまま、愛情深い両親と優姫と、お伽話の様に幸せな時間をずっと生きていけたら-。
角砂糖を入れ過ぎた紅茶の様に、目眩がしそうなくらい甘く、穏やかな時間だった。

「…」

李土。
お前は本当に僕によく似ている。

「もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ。かつて愛した女が生き返ったんだ…嬉しいだろう…?」

ーお前の、かつての唯一の宝物。

李土の顔が愉悦に歪む。
苛立ちか、それとも憎しみなのか、喉が酷くひりつく。
嬉しい、か。
そう思えたならどれだけ良かっただろう。
僕達に与えられた永い時間は、得るものよりも失うものの方が多かった。
それは命であり、記憶であり、心であり。
どれも掌に落ちた雪が溶ける様に消えていく。
彼女も…。
李土がくつくつ、と喉を鳴らして笑う。

「お前に僕を非難する権利は無いぞ。お前は今も彼女を生かしているんだからな」
-最初からわかっていたんだろう?僕の血で蘇ったのだと…。

まるで寝物語でも囁く様に。
掠れた甘やかな声で悪魔は嗤う。

「お優しいことだ。憐れむのなら、何故殺してやらなかった…?」
2度も殺すのは気が引けたか?

愉しそうに吊り上がった口元を見やって、瞼を伏せる。
なんて幸せな子どもなのだろう。
憐れみや歓喜なんて言葉で言い表せるはずもない。
なぁ、李土。
お前は知らないだろう。
一万年もの孤独を。
哀しみを。
憎しみを。
そのどれも、お前は知らない。
知ろうとすらしない。
吐き捨てる程の長い時間の中で何回も何百回も何万回も夢に見た。
出会った日を。
過ごした日々を。
失った日を。
その度に哀しみで心は磨り減るばかりなのに、その度にそれだけが僕に残った人間らしさの欠片なのだと実感出来た。
罰でも呪いでも構わないから、彼女が遺した何かを手放したくないと一万年もの間、塞がる前に瘡蓋を抉って惨めに縋った。

「僕を買い被り過ぎだよ…李土」

憐れんだ?気が引けた?そんな生易しいものじゃない。
今この瞬間も、皮膚の下で滾る獣の血の熱さに吐き気がするくらいだ。
生きて、僕を呪って欲しいと。
だけど愛して欲しいと浅ましく望む姿の何処が優しいものか。
その卑しさを、優姫を守る事で帳消しにしようとしているのだからとんだ人でなしだ。

「…どんなに苦しもうと、死なせてと乞われようと、彼女は死なせない」

淀んだ瞳が、ゆるりと弧を描く。
あぁ。本当にお前は僕によく似ている。

「何度蘇ろうと、お前の執着があのアポカリプスブラッドを殺す…」

何度でも。

「…」

頬に触れて融ける雪のように李土の声が肌に染み込む。
頬に触れても感じるのは自分の指先の熱だけだとわかっているのに。
ふ、と自嘲気味に笑う。
救いは無いとわかってるのに、ダメなんだ。
息づく君を見たら、触れたら、願ってしまう。
生きて欲しい、と。
殺す方が救いだとわかっているのに。

「…また君に恨まれるな…」

それでも数え切れないくらい願った。


"君に、また会いたい。"

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