夜明けはすぐそこ。

カーテンの隙間から覗く夜明け前の淡い光とオレンジのキャンドルの灯りが、彼の背中をぼんやりと照らしていた。そんなに大きなトランク、持っていたっけ。今は一体何時?飛行機は、何時の出発だったかしら。
テーブルの上には飲みかけのワインと二つのグラス、クラッカーにチョコレートの銀紙がそのままになっていた。グラスがキャンドルの淡い光を受け、小さく輝いていた。



夢と現実の間。

ぼやけた彼の背を眺めながら、毛布をぐっと顔まで引きよせる。ベットのスプリングが小さく軋んだ。私は、夢の中で彼とLast Smileを聴いていた。もしかしたら、昨晩ワインを飲みながらの聴いていたのかもしれない。夜のうちに支度しておけば良いのに、彼は旅立つ間際になってから大きなトランクに荷物を詰め込んでいる。



夜明けが近づいてくる。

トランクを閉め立ち上がると、彼の髪が揺れ、チョコレートの銀紙が床に落ちた。私は更に深く毛布を引っ張った。頭のほとんどが毛布に包まれ、彼の足元しか見えなくなってしまった。胸が詰まりそう。あんなに大きなトランクに何を詰め込んだのかしら。彼のお気に入りのチョコレートたキャンディは忘れずに詰め込んだのかしら。






『あの国では星がとても綺麗なんだ。ビロードの夜空にダイヤが散らばってんの。オーロラは夜空のカーテン!君にも見せてあげたいなぁ。』

昨日の夜、私たちは眠れなくてワインを開けた。そして彼はそうに言ったのだ。キャンドルの炎が彼の首筋を照らしていた。とても綺麗で、胸が痛かった。余計に眠れなくなるじゃない。カーテンの隙間から覗いた夜空は、ビロードでなければ星でもダイヤでもなかった。

彼の頬にそっと触れた。優しい目。頬が赤い。照れてるんじゃない。ワインのせい。



『僕が探してるものは、ここには…』








行ってしまうのね。

扉が閉まる音が響いた。頭の中には一緒に眠るときの、昨晩の彼の微笑みだけが海月のように漂っていた。手のひらにはもう彼の頬の柔らかさはなかった。声にならない言葉は毛布に吸い込まれてしまった。どうか、彼の探し物がみつかりますように。私はそうに願いまぶたを閉じた。浮かぶ海月はもうどこかへいってしまっていた。





20151219 last smile
十四松が旅たったあと





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