眠りの扉はすぐそこまで訪れていたはずだった。しかし、あともう一歩が進まないのだ。地図を広げ明日はどこへ行こうか考えても、もう一歩のはずなのに果てしなく遠くに感じられた。



皺一つなかったシーツは、十四松が何度も寝返りを打つおかげですっかり皺だらけになっていた。
眠れない理由は飲みすぎたワインのせいなのだろうか、十四松はそうに考えながら何杯飲んだのかを思いだそうとした。いや、違う、時差のせいだ。日本を離れ一週間が経とうとしているのに、時差だけは未だになれることがなかった。時差。それに気がつくと、この国の月が綺麗なことを思い出した 。十四松が探しているものではなかったが、それでも充分に満足にできる美しさだった。





『そうだ。眠れない夜は月をみるんだ。今までもそうにしてきたじゃないか。』




ベッドからのそのそと起き上がり、カーテンと窓を開ける。冷たい深夜の空気が部屋に入り、十四松は深呼吸をした。まだ少し残っていたワインをグラスに注ぐと、ふわりとぶどうの香りが漂った。窓からは煉瓦の街並みの中に街灯の暖かい光が広がっていて、遠くからワルツが聴こえる。いつか観た映画の世界だ。十四松は思った。そこは狭い路地裏だったが、どこまでも煉瓦の建物が続く古く美しい街だった。向かいの宿の泊まり客も眠れず起きているのか、カーテンの隙間から明かりが漏れていた。



ワインを一口含み、夜空を見上げる。そこには夜空に穴を明けたかのようにくっきりと大きな満月が浮かんでいた。綺麗だった。



そうだ。明日は彼女に手紙を書こう。撮りためた街や景色の写真を送るんだ。十四松はなんて良い考えなのだろうかと、グラスに残ったワインを一気に飲み干した。瞼を閉じると、あの日ベットの中で囁き合い、寂しい、と瞳に涙を浮かべた彼女が蘇る。しかし、ここは遠い異国。本当に自分が書いた手紙は彼女のもとに届くのだろうか。




『手紙を書いたって、写真を入れたって。日本までの空の道、途中で大きな鳥に食べられたりしないのかなぁ』



こうして、十四松の眠れない夜は巡っていく。




20151220/ワルツ、月、煉瓦の街
十四松が旅だつ前のお話




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