When the blazing sun is gone
繋がれた指先が熱を持っている。沈黙は苦痛ではない。むしろ期待を孕ませるためのスパイスのようなものだ。瀬見くんは今、何を考えているのかな。そんなことを私はぼんやりと沈黙の中で考えていた。
公園を出すると大きな通りに出る。街灯は等間隔に並べられており、この時間のせいか人はあまり通らない。かといって物騒と言うこともないから、私たちは素直にこの緊張を楽しめていた。
「……瀬見くん」
「は、はい」
「あはは。緊張してる?」
なんて笑ったけど、緊張しないわけないよね。私だって実はしてる。さっきは泣くことと喜ぶことに必死だったけれど、その感情が落ち着くと次にやってきたのはまたやっかいな感情だ。
「してます。……凄く」
「わかる。私も実は結構ドキドキしてる」
「えっ」
「変かな?」
瀬見くんの指先に力がこもった。薄明かりの下、瀬見くんの顔には影がかかっている。私は彼を見上げ、はにかむように笑った。幸せを濃縮したような時間は、私を少女へと変えるかのようだ。
「いや、その……嬉しい、です」
「……明日、東京戻るんだよね?」
「はい」
マンションまでの家路がこんなにも短いと思うのはいつぶりだろう。遠回りしようよ、そんなことを言って瀬見くんを困らせたい。なんて、大人げないこと出来るわけもないけど。だから私はちょっとだけ足取りを遅くする。
「ちょっと寂しいね。あっでも来月ね、友達の結婚式があるから東京行くよ」
「マジっすか?」
「うん。日程と時間、後で連絡するから時間が合いそうだったら会えたらいいな」
「つくります、時間」
「会えたら嬉しいけど部活もあるだろうしあんまり無理しないでね。ご飯行くだけとかでも良いし」
「無理させてください」
「え?」
「名前さんが会いたいからって言えば無理しても時間つくります。だって俺も会いたいですから。名前さんが喜んでくれるなら無理してもいいです、俺」
瀬見くんは誠実だ。ひたすらに、実直に、私に向き合おうとしている。若い頃の私だったら手放しで喜んでたかもしれない。自分の為に無理をしてくれることに愛情を感じていたかもしれない。
重なる手に力を込めた。私はずっと、この人とこうやって手を繋いでいられる関係でありたい。
「ダメだよ。私のために無理したら。そういう無理はきっといつか疲れちゃうから。瀬見くんのリズムを大切にして良いんだよ。そもそも、私なんて付き合うとか考えてなかったし気持ち伝えるのでいっぱいいっぱいだったし、だからこうしてこれからも関係を続けられるだけでも嬉しいっていうか、満足っていうか。でも、私のことを考え言ってくれたんだよね。ありがと」
笑うと、瀬見くんはちょっと悔しそうな顔をした。それがなんだかとっても年相応で、可愛い。
「そういうとこ、やっぱりすげぇ大人ですよね」
「えっそうかな?」
「そう言うこと言われると自分がめちゃめちゃ子供っぽいって思わされるっていうか、なんか、悔しいです」
「んー……。でも、可愛いよ」
「可愛い、ですか? 俺が?」
「うん。私は瀬見くんのそういうところ好きだけどね。あと、私全然大人じゃないよ? もうちょっとでマンション着いちゃうけどどうしたらもっと一緒にいられるかなぁとか考えてたりするし。やっぱりちょっと浮かれてるんだと思う。だから頑張って大人であろうとしてるだけ」
ふいに瀬見くんが私の腕を引く。バランスを崩すようにして、私は彼の胸元に収まった。抱き締められてると気が付いたのはすぐのこと。曲がり道を過ぎて人通りがいっそう少なくなったとは言え、こうやって外で距離を無くすのにはやはり恥ずかしさが募る。だけどそれ以上に抱き締められたことが嬉しくて、人もいないし良いやと私も抵抗することなく、瀬見くん背に腕を回した。
「可愛いのは名前さんです。そんで俺はやっぱりすげぇダセェ……」
「えっなんで!? ダサくないよ! だってついこの間まで瀬見くんは高校生だったんだよ? 社会人の私と比べたらダメだよ。これからちょっとずつ大人になっていくんだから、良いんだって」
「けど俺、名前さんには可愛いじゃなくて格好いいって思われたいです」
そっと身体が離されて、真剣な瞳の瀬見くんが私を見つめる。もう十分格好いいと思ってるのに。今だって、そうなのに。そんな風に言われるとますます離れがたくなってしまう。
「……て言うか、その、可愛すぎて離れがたい、です」
恥ずかしそうに、気まずそうに瀬見くんは言う。あ、やっぱり可愛い。なんて思ったこと言えそうにない。
「あのね、寂しいって思うの私も一緒だよ。せっかく同じ気持ちになれたんだから、いつでも連絡してきて大丈夫だからね。私も夜とか声聞いてから寝れたら幸せだし。私も離れがたいから、来月会えるの楽しみにして仕事頑張るね」
「そんな風に言われたら、頑張りますよ俺。つーか、頑張らないわけにはいかないっていうか」
「瀬見くん」
「なんですか?」
「これから、よろしくね」
「はい。……俺、名前さんのこと大切にします。すごく」
「私も。瀬見くんのこと大切にします」
優しい面持ちで瀬見くんが微笑む。私たちの未来は輝きに満ちている。
(18.04.15)