エイプリルフールの話
あ、そっか。今日エイプリルフールだ。思い出して、私はニヤニヤしながら衛輔くんに近づく。ソファに座ってスマホを見ていた衛輔くんが顔を上げて私に視線を向けた。
「ねぇねぇ衛輔くん」
「ん。どうした?」
「衛輔くん、きらい」
私が笑いながら言うものだから、衛輔くんはすぐに私のやりたいことを察した様子だった。口角をあげ、私の頬に手を添えながら衛輔くんは言う。
「お。じゃあ俺も名前嫌い」
「あ〜そういうこと言うんだ。だったら私はもっともっときらーい」
「それなら俺はもっともっともっと嫌いってことで」
じゃあ私はもっともっともっともっと、と言おうと思ってやめる。だめだ、もう笑いたくて仕方ない。
「あはは。これじゃあ際限ないよ。あと普通に好きって言いたいし好きって言われたい」
「エイプリルフールなのに?」
「じゃあ今だけエイプリルフールをバリアします」
「はは、バリア出来んのかよ」
衛輔くんは柔らかく笑う。その表情を見てこの人が好きだなと思う。春は優しく、私達の心を彩る。
「出来るよ。この部屋の中だけエイプリルフールはバリアされました」
「じゃあそのまま言えるな」
顔が近づいてキスをされた。離れて、その瞳には私だけが写っている。それだけで胸はときめく。
「好き。愛してる」
衛輔くんの声が私の鼓膜に触れた。くすぐったい。嬉しい。楽しい。幸せ。だから今日も、今日を好きだと思うのだ。
「私も好き。大好き!」