01
あ、KODZUKENさんログインしてる。
ロビー画面で真っ先に目に入ったのはその名前だった。随分前に野良でマッチしてから友達になって、たまにチームを組む人。本名も年齢もどこに住んでるのかも知らない。ただ時々マイクがオンの時があるから男性だってことは知っている。
「誘ってもいいかな……」
今日はソロの気分じゃなかったからコヅケンさんがログインしていたのは嬉しかった。野良パ組んでも良いけど即抜け多いし、コヅケンさんエイム神だからキャリーもしてくれて頼りになるし。
しばし迷ってパーティーの招待を送ろうとしたとき、先に届いたメッセージ。それはコヅケンさんからのパーティー招待だった。
「下で撃ち合ってるから漁夫るけどリロード大丈夫?」
「大丈夫です。いけます」
「じゃあ俺SMGで近距離行くから後ろからフォローよろしく」
「任せてください!」
コヅケンさんが前方に走り出したのを確認してアサルトライフルを構える。エイム練もした。アシストも強化された。だから多分、大丈夫。逆に漁夫られないように注意しながらさっきまでの戦いで体力が削られているだろうプレイヤーを撃つ。
「ひとりキルした」
「もう一人もシールドは削ってます」
コヅケンさんが1人キルしてくれた時点で1対2。分はこちらにある。そう思って私がアサルトのリロードをしていると、コヅケンさんはショットガンに切り替えてすんなりともう一人を倒していた。見惚れてしまうほど無駄のない優雅な立ち回り。
「コヅケンさんナイス!」
「そっちもナイス」
「いやいやあんまり力になれなくてすみません」
「そんなことないけど。圧かけるのも重要だし。ねぇシールド持ってる?」
「持ってます持ってます。投げますね」
「あと8パーティーだし先に安地移動しとく?」
「はーい」
コヅケンさんの背を追って次の安地に向かいながら、このまま最後まで勝ち残りそうだなとぼんやり考える。
だってコヅケンさんとパーティー組んで負けることってほとんどないんだもん。
「コヅケンさんってボロ負けすることあります?」
「なにそれ。あるに決まってるじゃん」
「なんか無敵って感じするんで。エイム神だし」
「まあ練習してるし。今日アプデされたばっかりだからちょっとラグい感じするけど」
安地がどんどん小さくなって残りのプレーヤー数も徐々に減っていく中、コヅケンさんのキル数は増えていく。
「あ、S方向一人います。体力回復してるっぽいんでスナイパーでヘッショ狙いますね」
「わかった」
「安地狭いしそろそろ捨てようかなと思ってたけど持ってて良かったです」
エイムを合わせて狙いを定める。
スナイパーは遠方を確認できるから便利だけど、弾の落ちる角度を計算しなくちゃいけないから正直あまり得意ではない。コヅケンさんと組んでる以上、足を引っ張るわけにはいかないと普段以上に集中してヘッショを決める。
「やった! ヘッショで確キルしました!」
「うん。ナイス」
柔らかい声がヘッドホン越しに聞こえる。顔も知らないのに、優しく微笑んでくれた気がした。
コヅケンさん、私と同い年くらいなのかな。どこに住んでるんだろう。どんな顔をしているんだろう。いやいや、そんな事考えたって仕方がないし。
「……て言うかあと4人なんですね」
浮かび上がった疑問をかき消すように口を開く。
「あ、いた。さっきのスナイパーの音で向こうもこっちに気付いてるっぽい」
「え、どこですか?」
「NE。建物の影」
「確認出来ました」
「俺また前に出るからフォローよろしく。赤いスキンの方から狙う。被弾しないようにするけど、多分両方俺を撃ってくるからその間に青い方をキルするか体力削ってほしい。どうせ残り2パーティーだから漁夫もないし一緒に前出ても大丈夫だけど」
「わかりました。じゃあ私ショットガンで圧かけます」
作戦を決め、行動に出る。2対2。敵にエイムを合わせて被弾を避けることに集中しているからコヅケンさんの状況はわからない。でもいけそう。そんな確信を得て、そしてそれは現実となった。
「あ! やったあ!」
「ナイスアシスト。ありがと」
「いえいえこちらこそありがとうございます! ほぼほぼコヅケンさんのおかげなので……」
「そんなことないでしょ。デュオなんだしふたりでうまく立ち回れたからだと思うけど」
「や、優しい……!」
「大げさ」
ほら、また。今、絶対微笑んでくれた。
「どうする? 続ける?」
「あー……今から夜ご飯なので」
もっと早めにログインするんだったなと思いながら言う。次もまた誘ってもいいかな。悩む私に、コヅケンさんが言った。
「そっか。じゃあまた今度」
「ま、また! またお願いします!」
「おつかれ」
また今度。
パーティーが解消されても、その言葉だけがずっと耳に残った。この高揚感は最後まで生き残れたからなのか、コヅケンさんパーティーを組んだからなのか。
これはゲーム。
たかがゲーム。
されど、ゲーム。
だけどそんなゲームの世界で出会った、この世界のどこかにいる本名も顔も知らない人に心を振り回される日々がやってくるなんて、この時の私は想像すらしていなかったのである。
(22.03.30)