17
リスポーン。ゲーム中にキルされたら決まった位置からまたゲームを再開すること。
「リスポーンしたよ」
孤爪くんの言葉は私の心を撃ち抜いた。多分、ヘッショの一発確キル。心臓はまだドキドキしていて、好きだよと言った孤爪くんの声が頭の中を巡っている。
「あ、ありがとう」
例えば、そうだな。撃ち抜かれた私が、ゲームみたいにリスポーンされるなら。
その時はやっぱりゲーム友達でも大学の同期生でもない――恋人という新しい関係でリスタートしたい、と思う。出会ってから続く私たちの時間。そこにちょっとだけ変化を加えて、これからも続けていきたい。
深呼吸をして、コントローラーを強く握った。
「あの、孤爪くん」
「うん」
穏やかで柔らかい孤爪くんの声。
冷静に考えたらやっぱりこの状況でこんな話をするのっておかしいけれど、これはこれで私達らしくて嫌じゃない。
「……さっき、好きって言ってくれたよね」
「言ったね」
「どうして急に?」
「急って言うか、ライブ配信聞かれてたってことはバレてるって事だし隠さなくてもいいかって思って。でも俺が言わなかったら名字さんが言ってくれたでしょ。言い出しにくそうだったから俺から言ったんだけど」
「え。まって、バレてたの!?」
いつの間に心を読まれていたんだとコントローラーを落としてしまいそうになる。
私は動揺で全然エイムが定まらないっていうのに、どうして孤爪くんはこんな時も絶好調なんだろう。もう本当にいろんな意味で敵う気がしない。
「名字さん、途中からずっとなにか言いたそうにソワソワしてたし。それにこの前名字さんの友達からやけに俺と名字さんの関係について聞かれて、その時に名字さんが俺に伝えたいことあるみたいだって色々と言ってたから」
「よ、よっしー……!」
私の良いところと彼女にするべき点をレポートにまとめて孤爪くんに送り付けるって言ってたけれど、まさか先に似たような事をやっていたんだろうか。よっしーの事だから私を後押しする為にやってくれたのだろうけど、何を話したのか気になって仕方ない。
「あの人面白いよね。ゲームだったらサポートキャラにいそう」
「……私は意外とボス戦前のキャラかなって思った」
「ああ、確かにそれもありそう」
孤爪くんは楽しそうに言う。そしてやっぱり神がかった操作でゲームをしながら言葉を続ける。
「まあだからなんとなくそうなのかなって。そうだったらいいなって願望もあったけど」
「……こんなに仲良いんだから孤爪くんも私の事好きだったらいいなって思ってたけど孤爪くんがそんな風に考えてたなんて全然思わなかった」
「俺、誰にでもあんな態度とらないよ。俺としては結構分かりやすい方なんじゃないかなって思ってたんだけど」
いつから私は孤爪くんの特別になれていたんだろう。気になるけれど、その前に私もちゃんと言わないと。
深呼吸をする。好きって言ってもらえても、好きって返すのはやっぱりドキドキするし勇気がいる。孤爪くんはもう私の気持ちなんて手に取るようにわかると思うけれど、ちゃんと自分の言葉で口にしないといけない。
感情がスイッチみたいにオンオフ出来るものじゃなくて本当に良かった。
「……私も好き。孤爪くんがコヅケンさんだからじゃなけて、孤爪くんが孤爪くんだから好き」
「うん。ありがと」
ああ、どうしよう。困ったな。ふつふつと湧き上がる喜びと、冷めやまぬ緊張でリスキルされそう。この戦いが終わったら一旦休憩を挟んでもらわないとダメかもしれない。
そもそもお互い画面を見ながらゲームしていてこれなのだから、見つめあった時には私はどうなっちゃうんだろう。ドキドキしすぎてバグるかもしれない。
「ご、ごめん。私、今ちょっと気持ちがフワフワしててリスキルされそう……」
「そうなったらまたリスポーンするから」
「やっぱり神だ……!」
「彼氏でしょ」
孤爪くんは言う。淡々と、でもどこか得意気な声色で。
ねえ今どんな表情で言ったの。今まではヘッドセット越しの声で孤爪くんの表情を想像するばかりだったけれど、これからは見つめ合ったり触れ合ったり出来るんだからきっとこれまでには気づかなかった孤爪くんの表情をたくさん知るのだろう。例えば満面の笑みとか、照れる表情とか。
「孤爪くん」
「なに?」
「こっち向いて」
孤爪くんがこちらを向く。その視線を受けて私はやっぱりドキドキして、この人が好きだと改めて思った。
「……顔、見たかっただけ」
「ふうん」
優しい表情。柔らかい声色。
孤爪研磨くん。FPSのゲーム内で出会った人。有名ユーチューバーKODZUKENでもあり、同じ大学に通うプロゲーマー。東京郊外にある一軒家に住んでいて、普段はちょっと気怠げだけど緩く口角を上げた時の優しい笑い方がかっこよくて、柔らかな声色で私の名前を呼んでくれる尊敬する大好きな私の彼氏。
(23.09.22)