いち!

 週明けの席替えで白布くんの隣の席になったのは何かの運命だと思った。
 移動を終え、隣に並ぶ白布くんの横顔を盗み見る。さらさらの前髪。形の良い耳。綺麗な鼻筋。まじまじと顔のパーツを見つめる私の視線に気づいたのか、切れ長の瞳が怪訝そうにこちらを向く。

「……見すぎ」
「あ、ごめん!」
「何?」
「えっと」

 どこからどうやって話そうと考えながら、昨日のことを振り返った。
 友達に誘われて、初めて足を運んだ男子バレー部の試合。白鳥沢の男子バレー部が強豪なのは知っていたし、牛島先輩という存在も名前だけは知っていたけれど友達の誘いに乗ったのはただの気まぐれだった。勝敗もさほど興味はなかったし、その後に予定していたカフェご飯を楽しみにしていたくらい。

「実は昨日、バレー部の試合観に行ったんだけど、牛島先輩がとにかくかっこよくて凄かったなって思って」
 
 だけど、そこで奪われてしまったのだ。
 私の心が。
 牛島先輩に。

「あっもちろん白布くんもかっこよかったんだけど!」
「そりゃどうも」

 白布くんは呆れたように答える。
 私はもう一度、白布くんを見つめた。同じクラスになって早2か月。正直白布くんと仲が良いとは言えないけれど、私が今日、白布くんと隣の席になったのはやっぱり運命としか考えられなかった。
 だってこのクラスでバレー部なのは白布くんだけだし、こんなタイミングで隣の席になるなんて神様が牛島先輩の連絡先を白布くんに訊ねなさいって言っているとしか思えない。
 次の授業が始まるまではまだ時間があるし、やっぱり聞くなら今しかないと意を決する。

「それで、白布くんにお願いがあって」

 一瞬、白布くんの眉間に皺が寄る。
 嫌だ、と先手を打たれてしまう前にとそのまま続けた。

「牛島先輩の連絡先を教えてほしいなぁって! どうか! この通り!」

 言いながら頭を下げる。なんなら土下座をしたって良かった。それくらい切実に牛島先輩の連絡先を求めていた。

「は?」

 頭上から注がれる訝し気な声。
 これは簡単には教えてもらえなさそうな予感がするけれど、私だってそんな簡単には引けない。

「牛島先輩の連絡先を! 教えてください! お願いします!」
「嫌だ」
「そこをなんとか!」

 そこをなんとか白布様。
 と、心の中で礼拝しながら呟いた。悪用なんてしないから、せめて牛島先輩に連絡先を教えて良いかどうかの確認だけでもしてほしい。
 だけどそんな私の思いも虚しく、白布くんは頑なに私の願いを拒否するだけ。

「絶対に嫌だ」
「白布くん手強い……ガードが堅い……」
「大体、なんで名字に牛島さんの連絡先教えなきゃいけないんだよ」
「え? 牛島先輩がかっこいいから」
「理由になってねぇよ」

 嘘でしょ。これ以上ないってくらいの理由なのに。牛島先輩がかっこいいから牛島先輩と仲良くなって最終的には付き合いたいだけなのに。至極真っ当で正当な理由なのに。

「だからつまりね、牛島先輩のことを知って、牛島先輩に私のことを知ってもらって、ゆくゆくは彼氏彼女になりたいなーって……」
「ますます教えたくねぇ」
「純粋な乙女心なのに」
「不純な下心だな」
「ひ、ひどい……」

 項垂れる私に白布くんは言う。

「大体、ただのクラスメイトに牛島さんの連絡先を教えるわけないだろ」
「……ただのクラスメイト?」

 つまりそれは、ただのクラスメイトじゃなければ良いという事だろうか。
 友達……いや、白布くんの親友とも言えるような座についたら牛島先輩の連絡先を知ることが出来るってこと? じゃあ私のすることは1つしかないじゃん!
 そうか。そういうことか、と理解した私は改めて白布くんに向き合う。
 これが私にとっての正攻法。牛島先輩の連絡先を知る為の近道。

「仲良くなろう、白布くん!」

 白布くんは目を見張った。
 幾度か瞬きを繰り返して、我に返ったように慌てて言葉を紡ぐ。

「いや、だからそういう問題じゃ――」
「私、白布くんと友達以上になれるよう頑張るから! そしたらただのクラスメイトじゃなくなるし、白布くんも快く牛島先輩の連絡先教えてくれるってことだもんね」
「おい俺の話をちゃんと――」

 その時、白布くんの言葉を遮るようにチャイムの音が響いた。同時に先生がやってきて、騒がしかった教室は一気に静かになる。
 白布くんはまだ何かを言いたそうにこちらを向いていたけれど、私は気付かないふりをした。ごめんね白布くん。私はどうしても牛島先輩の連絡先が知りたいんだ。

「ふざけんな……」
 
 隣でボソリと呟かれた独り言は聞こえなかったことにしよう。
 こうして、この日を境に白布くんと仲良くなる為の学校生活が始まったのである。

(22.11.01)