に!

「白布くん! 一緒に学食行かない?」
「行かねぇ」

 昼休みのチャイムが鳴ると同時に白布くんに声をかける。
 授業が終わったら真っ先に声をかけるぞと意気込んでいた私の気持ちなんてこれっぽちも知る由のない白布くんは、私の言葉をあっさりと一蹴するだけだった。

「行こうよ〜。週替わり定食食べようよ〜。まずは一緒にご飯食べて親睦を深めよ?」

 白布くんに仲良くなろうと宣言してから一週間。お昼の誘いはいまだに良い返事を貰えないけれど、グループワークやちょっとした会話を通じて白布くんについてわかったこともある。

 その1.めちゃめちゃ頭が良い。スポーツ推薦で入学したと思っていたのに入試を受けて合格したらしい。
 その2.密かに女子から人気がある。整った顔立ち。文武両道。そう考えるとむしろ人気のない方がおかしいくらいだけど私には牛島先輩がいるから関係ないかな。
 その3.口は悪いけど意外と優しい。時々乱暴な言葉を使っているけれど、この間困っていた後輩を助けているのを見た。出来れば私にも優しくして欲しい。

「俺は名字と仲良くなるつもりはない」
「冷たい!」

 でもね、甘いよ白布くん。私だってこれまで数多くの少女漫画を読んできたんだから、白布くんみたいな人との距離の縮め方は脳内にいくつかインプットされている。
 お昼ごはんがダメでも勉強を教えてもらうという口実があるのだ。

「それなら白布くん、勉強教えて!」
「嫌だ」
「えっそれもダメ!? 待って。他のパターン思いだす。うう……最近チャラい系男子とか爽やか真面目系男子が相手の内容が多かったから白布くんみたいなタイプってどういうエピソードで結ばれるか全然思い出せない……いや、私が結ばれたいのは牛島先輩なんだけど!」
「なんの話をしてんだよ。つーか、万が一仲良くなったとしても牛島さんの連絡先を教えるつもりはない」

 相変わらず白布くんのガードは固い。そもそも牛島先輩を抜きにしてもクラスメイトとして親睦を深めるくらいはさせてくれても良いんじゃないだろうか。
 お腹もすいてきたし、週替わり定食が売り切れになるのも嫌だし、私なりの折衷案を口にする。

「じゃ、じゃあ私が勝手に白布くんの隣でご飯を食べるのは? たまたま席がそこしか空いてない事だってあるかもしれないし!」

 偶然というていならばどうだ! と懇願する眼差しで白布くんを見つめる。
 私のしつこさに耐えかねたのか、はたまた白布くんもお腹が空いてこの押し問答を早くやめたいと思ったのか、ため息を吐き出しながら言った。

「……もういい好きにしろ。これからも毎日昼に誘われるのは疲れる」
「やったー!」

 そう、なんやかんや白布くんは優しいのである。
 席を立った白布くんの後ろを遅れないようについていく。教室内と同じくらいに騒がしい廊下。きっと学食はもっと混んでいるだろうな。もし週替りが売り切れていたら何を食べようかと考えていると、珍しく白布くんが問いかけてきた。

「つーかお前、いつも仲良い女子で集まって教室で食べてるだろ。いいのか、俺についてきて」
「えっ白布くん私の事見ててくれたの……?」
「見てたんじゃなくて見えるんだよ。自惚れんな」
「大丈夫だよ。友達には白布くんと仲良くなりたくて頑張ってるんだって先に言ってるから」
「おい、変な誤解はされてないよな?」
「えっと、私の好きな人は牛島先輩だってことはちゃんと伝えてある!」
「それなら、まあ、良い。……いや、良くねぇ」

 白布くんの百面相。その4として意外と面白い人っていうのを加えておこうかな。
 決して私のことを置いていかない足取りは白布くんの優しさを物語っていて、私はこの一週間そうしてきたように白布くんの横顔へ視線を向ける。

「白布くんは意外と優しいよね?」
「俺は名字がこんなしつこいやつだとは思わなかった」
「え〜粘り強いって言って」
「粘り強いなら今日の化学であてられたときなんですぐにわかりませんって答えんだよ」
「潔く諦めることも肝心肝心」

 それに白布くんは話しやすい。優しくない時のほうが多いし適当にあしらわれる事ばっかりだけど、白布くんの前だと変に着飾らなくていいし、言いたいこと言える。だから多分、牛島先輩の連絡先教えてって聞けたんだと思う。そして今も粘り強く挑んでいけるのだろう。

「て言うかやっぱり白布くん私のこと見てくれてるんじゃん〜」
「うるせー。だから見てるんじゃなくて見えるんだよ」

 白布くんと仲良くなれる日も案外近いな! と思いながら、一週間越しにようやく白布くんと肩を並べて学食へと辿り着くことが出来たのである。

(23.02.01)