
やってしまった。
僕は体調管理の甘さを一人で猛省していた。
軽い風邪だと思って喉の痛みを放置していたら、昨日からいきなり寒気がして、三十九度の発熱。
町医者を受診したら、しっかり検査をされた後、季節外れのインフルエンザだと宣告されてしまった。
少し咳込んだので、風邪予防だと昨日沢山食べたセロリも、時すでに遅し。
残っていた報告書を風見に任せ、受付時間ギリギリに町医者に駆け込んだ僕は、開いている薬局を探して杯戸町を彷徨っていた。
時刻は午後八時過ぎ。この住宅街のど真ん中で、開いている調剤薬局を探す方が難しいだろう。
“ジキル薬局”
暫く彷徨っていると漸く小さな看板が視界に入り、ホッと息を吐く。杯戸町にジキル薬局なんて、経営者の顔が見てみたい。
少しのぞいてみると、小さい間口ながらも比較的新しい薬局のようだった。
僕は自動ドアの開閉ボタンに手を触れ、ドアを開けた。
「こんばんは」
俺を迎えてくれたのは、眼鏡をかけた、長い黒髪の若い女性だった。
指通りが良さそうなサラサラと長い黒髪は、少し癖がついていることから、先程までひとつに束ねていたであろうことがわかる。
「あ…」
入店してから、僕はこの薬局の営業時間が午後七時までだったことに気付く。
「構いませんよ。処方箋はお持ちですか?」
僕の“しまった”という顔を見て察したのか、その女性はにこやかに笑った。
僕は彼女に言われるまま、先程町医者で受け取った処方箋を手渡す。
「ええと…降谷さんは、こちらの薬局のご利用は初めてのようですね。保険証の提示と、問診票のご記入をお願いします。」
ちらりと女性の胸元の名札を確認すると、“管理薬剤師 みょうじ なまえ”と記されていた。
随分と若そうに見えるがこの女性がこの薬局の長らしい。
僕は彼女の言葉に甘えてこの薬局で薬を貰って帰ることにし、彼女に保険証を手渡す。
代わりに受け取った問診票を、熱のせいか回らない頭で記入していく。
食べ物のアレルギーや既往歴、今飲んでいる薬など、普段は健康優良児である僕は嗜好品のところくらいしかまともに記入する欄がなかったため、サクッと書き終えてしまう。
問診を記入し終えて薬局の椅子に座ったところで、ホッとしたのか僕は意識を手放してしまった。