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今日の星座占いはきっと最下位


午後八時過ぎ。私は未だ帰れずにいた。
残業なんてしたくないが、仕方がない。管理職なんてそんなものなのだ。

家庭のある高橋さんには先に帰ってもらい、納品された医薬品の片付けや患者さんの薬歴の記入を終わらせる。

「んん〜!!おわり!」

思いっきり伸びをして、業務上いつも束ねている髪の毛を解いて開放感に浸っていた…まさにその時だった。

ウイーンと自動ドアの開く音がして、グレーのスーツ姿の男性が入店してきた。
整った顔立ちの若い男性だな、と伸びをして少し貧血を起こした頭で私はぼんやり考えた。

「こんばんは」

機械的に挨拶をする。もう何年もこの仕事をしているが故の癖のようなものだ。

彼が手に持っているのは、恐らくちょっと離れたところにある、昔ながらのおじいちゃん先生の病院の処方箋だろう。
殆どは院内でお薬を渡すが、院内にないお薬の場合には処方箋を出すのだ。病院の近隣に薬局がないため、このジキル薬局に処方箋が流れて来ることも多い。
それにしても、こんな時間に処方箋出すなんて不親切な医者だなぁと私は苦笑した。

「あ…」

彼は、この薬局の営業時間が過ぎていることに今気づいたらしい。顔が赤く目も充血していて、熱がありそうだと言うことは様子を見ればすぐに分かった。注意力散漫になるのは仕方あるまい。

「構いませんよ。処方箋はお持ちですか?」

所謂営業時間外というやつだが、職業柄こんな状態の人間を放ったらかして帰る訳にもいかない私が手を出すと、男性は素直に処方箋を手渡してくれた。

フルヤ、と入力したが患者リストに彼の名前はない。
新患、時間外…今日はツイてないな。

「ええと…降谷さんは、こちらの薬局のご利用は初めてのようですね。保険証の提示と、問診票のご記入をお願いします。」

「わかりました」

男性は財布から保険証を取り出し渡してくれる。
代わりに、私が差し出した問診票を受け取り、記入を開始した。


抗インフルエンザ薬に、解熱薬。

シンプルながらも、私に病名を伝えるには充分な処方箋だった。

「降谷さん」

お薬の準備が出来ましたよ、と声を掛けたが返事がない。

「降谷さーん?…え、嘘でしょ?寝てるの??」

俯いた顔を覗き込んで私は絶望した。

「失礼しますね」

彼の額に手を当てると、異常に熱く汗もかいている。

「うーん…三十八度は確実超えてるわね」

私の手元には、三十八度を超えたら飲むよう指示されたお薬がある。

「降谷さん、起きてください。降谷さん!」

肩を揺らすと、漸く熱で蕩けた瞳が覗いた。

「…はい」

「これ、先程処方されたインフルエンザのお薬と、解熱薬です。飲めますか?」

私がお水と共に差し出した薬を、彼は素直に飲み込んだ。多少の個人差はあるが、三十分もすれば解熱薬が少しずつ効いてくるだろう。
問診票の住所を確認すれば、此処から然程遠くはないようだった。

「仕方ない、か」

私は店を閉める準備をし、薬局の車のキーを掴んだ。