
秀一の死から暫く経った頃、私は真純ちゃんに連絡を取った。
「姉さん!」
颯爽とバイクに跨り現れた真純ちゃんは、私にヘルメットを渡してくれる。
彼女の目元も髪質も秀一とそっくりで、和らいだはずの胸の痛みがずきりと振り返す。
「ボクちょっと走りたいんだ…付き合ってよ」
私が真純ちゃんに言われるがまま、彼女に渡されたヘルメットを被りその細い腰に捕まると、バイクはゆっくりと発進した。
秀一と真純ちゃんは母親のメアリーさん似だ。三人兄弟の長男とは聞いていて、弟については紹介されたことはないが、彼が一生懸命将棋の試合をチェックしていることから、弟はプロ棋士の羽田秀吉なのだろうことはなんとなく分かっていた。間違いなく、あのボードゲームの筋の良さは、赤井の血筋だろう。
「姉さん…あのさ…秀兄は死んじゃったけど…」
バイクを景色のいい港で停め、私達はバイクから降りた。真純ちゃんが降りようとする私を気遣って手を差し出してくれ、やっぱり秀一の血筋だなぁなんて笑ってしまう。
「なぁに?」
「あの…これからも…姉さんって、呼んでもいいか?」
顔を赤くしてもじもじする真純ちゃんを、私は抱きしめた。
「もちろん…!」
「あとママがさ…『なまえのことは娘だと思ってるからまた遊びに来い』って」
「…いいの?」
「ママ、姉さんのことすごく気に入ってるんだよ…美人で賢くて…秀兄にピッタリだってさ」
真純ちゃんはニヤッと笑い、特徴的な八重歯が唇から覗く。
「ま、真純ちゃん…そんなに褒められると恥ずかしい…」
「あーボクが男だったらなぁ…姉さんのこと幸せにできるのに…」
「真純ちゃん…それは無理よ。私は秀一じゃないとダメだから」
しょんぼりとする真純ちゃんの背中を優しく叩いて、彼女の顔を覗き込む。
この子も元気そうに振舞っているが、だいぶ憔悴している。実の兄を失ったのだ、私なんかよりずっと彼女はショックを受けている筈。
「真純ちゃん、今から美味しいもの食べに行こっか。勿論、お土産付きよ」
どう?と私は真純ちゃんの頭を撫でる。
彼女の少し癖のある髪は、やはり覚えのある触り心地で、また胸がちくりと痛んだ。
「行く!姉さん大好き!」
真純ちゃんが私に飛びついて、一瞬よろける。
そういえば、昔もそんなことがあった。
真純ちゃんに初めて誕生日プレゼントをあげた時だった。
『姉さんありがとう!絶対大事にする!』
『わ、』
後ろに転びかけた私の背中を、秀一が支えてくれた。
『真純…なまえはお前より小柄なんだから、全力で飛びつくな』
『だってボク、姉さんの事大好きなんだもん!』
今は、背を支えてくれる人はいなくなってしまった。
昔を思い出して哀しくなるけれど、私は今も秀一を愛している。
それだけで、強くなれる気がした。