1話 よくある始まり


 気がついたら異世界だった。
 いや何言っとん、ありきたりの始まりだなっていうツッコミはなし。自分でもおかしいと思うけどそういう光景が広がってたらそういうものと思うしかないだろう。
 周りは雪景色、目の前にはなんかでかい蟲がうねってる。ムカデっぽくてキモいのが特徴だ。その前には大急ぎでこちらに向かって走ってくる布きれ一枚身につけた大人がいた。
「た、助けてくれ!」
「なんで?」
「追われてる、マジやばい何だよあれ助けてくれ」
「えっ、何これ」
 肩を掴まれ盾にされた。感触に夢じゃないと分かって初めて寒さを自覚して震える。それで自分も男と同じ服、手術着? らしきものを着てるとわかったけどそれで状況が改善されるわけでもない。
 とりあえずなんでこうなったか振り返ろうとするが、なんか近づいてくる自分の倍以上あるムカデに私を押し出し盾にしようとする男にドン引き、振り払って抗議する。
「なに盾にしようとしてんの?! やめてよ!」
「無理だよマジ無理、うわ来るっ、信じられねえ!」
 言うだけ言って逃げようとする、てか逃げた。
 うわこいつありえない女置いて逃げたよ、と思ったら腕を引っ張られて。あ、見捨てないでいてくれたんだって嬉しくなった。
 でもそんな感傷に耽る暇はない。積雪をもの凄い轟音でかき分け化け物が近づいて来る。どう見てもやばい、逃げなきゃと焦るが足が重くて上がらない、雪に足が取られてもつれるし冷たい、くそっ。
 私も半泣きで早く急げと彼に急かされるけど男と女じゃ違うんだってと文句を言おうとしたら、急に足下がなくなってバランスが崩れた。
 落ちた? 助けようと引っ張ってた彼もそうらしく手が離れて、とたんに不安になったけどあとはそのまま吸い込まれるように落ちたんだと思う。
 どしんという音と衝撃。い、痛い? いや痛い? え、夢じゃないのこれ。
「重い、ちょ重いどいて」
 下からの声に慌ててどいた。下敷きになってくれたらしい彼を助け起こす。暖かい、生きている……よかった。
「おお、あんがとな」
「大丈夫?」
「はは、おかげさまでな」
 破顔して(この場合は苦笑だろうか)あどけない表情の彼にようやく私は男の表情を初めて見た。若い、というには未熟さはなく相応の風貌だと思う。私より身長は高くひょろいが、もやしっぽくはない。悪人でもない至って普通の青年だった。
「ひとまずは助かったか、よかった……」
 はあと溜息。そうだねよかったと相づちを打って、あれこれどこかで見た展開だなと思った。懸念は当たった。ほっと一息ついたと思ったら今度は落ちた先の洞窟奥から赤いスライムみたいなのがドロドロと這い出てきた。困る青年と対照的に私の血の気が引く。なぜならこの流れに覚えがあったからだ。
 戸惑う青年の前に今度はムカデの化け物が迫ってきた。慄く青年、固まる私、スライムは大きな目標に意識がそれたのか触手を伸ばしムカデの化け物を捕まえて捕食する。固い甲羅が液体状に溶けていきグロテスクなありさまにただただ二人圧倒された。
「こ、今度こそ、助かった……のか?」
 溶けていく内臓に呟く彼。助かってないから、ここからだから物語。言えない言葉を飲み込んで、とにかく出ようと袖を引っ張り呼びかけた。
「すぐ襲ってくるよ、ぼんやりしてたら溶かされちゃう。早く逃げないと」
 でないと主人公丸呑みで肝心のストーリーが始まらない。
「お、おお? そうか……でもなんか言ってないか」
 幻聴だからそれ……内容なんとなく想像つくのが辛いところだけど。一生懸命早く早くと急かしたからか、展開は結構早かった。
 突如現れた少女の閃光弾でふいに近づいてきたタタリからハクを引き離し、手を引かれ三人で走り出す。素足だからか足が痛い、てかスピードめっちゃ早い。
 文句を言うハクに諫める少女、私は既視感と恐怖から乾いた笑いをあげてハクにしっかりしろよと励まされ引きずられるように走る。
 彼女のフードから除く耳は人外のそれ、いわゆる獣耳だ。外套から除く尻尾はふさふさで、どう見ても同じ人種じゃないのは明らかで。
 もつれふらつきどっか怪我したけど止まれば終わるのが想像できたから頑張った。
「た、助かったのかな、ハク」
 ぜえはあ言いながら引きずられつつ声を掛ける。まあ現状助かるどころかこれからも危機の連続なんだけど。言わない言葉を飲み込んでとりあえずの感想を告げるけど、ハクは走るのに必死だ。
「ハク?」
 同じく引きずられながらも眉をひそめるく姿にん? と自分の発言を振り返り強ばった。知らない、私は何も言ってないよ。
「急いで、まだ追ってきてるから」
 天の助け! うっかり漏らした未来の名前を聞かなかった振りをして、超驚異的な身体能力の少女に這う這うの体で引っ張られ安全地帯までひた走った。


 そうして走り続けた先、なだらかな傾斜の林に沿った先にテントらしきものが見えた。遊牧民が張るような、不思議な文様の家は彼女が作ったものらしく、ここまで来れば安全だよ、少し休もうと手招きされようやく足を止めることが出来た。ハクも私も息が切れて膝が震えている。お互い顔を見合わせ笑った。とにかく無事で良かった。
「よかったね、助かったみたい」
「ああ、そうだな。ひとまず安心お疲れさんだ。それでさ、さっきだけど」
「なに?」
「何か言ってなかったか? もしかしてあんたオレを知ってるんじゃないのか?」
「空耳じゃないの?」
 何か言いたげなハクにすっと呆け、クオンに呼びかけられたのを幸いにテント入り口の布を捲り中に入った。危ない危ない気をつけないと。誰が聞いてるかも分からないんだから失言には注意しなきゃ。
 暖かい空気にほっとして、追ってきたハクと共にお茶を勧められ敷き詰められた絨毯に座った。勧められたお茶を頂く。甘く個性的な味は精神を落ち着かせるには十分な効果があり人心地がついた。でもと、横で気の抜けるハクを流し見て気を引き締める。まだ助かったわけじゃないんだから。
 そう、まだ完全に助かったわけじゃないと私はすでに知っていた。なんならこの後の流れも知ってる。まずはクオンの自己紹介だ。その後名を聞かれてハクが記憶を失っているやらで同行することになり、仕事を探してヤマトを訪れ楽しい日々、の後は、ラノベも真っ青の戦乱戦乱オア戦乱でハクが社会上死んで将軍に成り代わり勝利の末ヤマト平定。うん、考えるだけで辛くなってきた。
 私は全てを知っている。だって昔プレイしたゲームくりそつなんだもん。うたわれるものってゲーム冒頭そのものの流れに興奮は隠せないけど、どうせならもっと楽な世界に生きたかったと思うのは許してはしい。だってここ化け物揃いで生きてける気がしないし。うん、化け物揃い? チラリと見れば亜人に旧人類の生き残り、裏の顔はどっかの女王に帝の弟君だ。只人の私に付いていけるはずがない、こりゃどっかで離れるなりして身の安全を確保しないとなあ。
 ああもっとキャラ達のご尊顔を拝謁したかったと思い返してる間にハクが隣に腰を下ろす。ハクに茶を勧め、その後すぐクオンの自己紹介が始まった。そらきたどんぴしゃ、嬉しいやら悲しいやらで私は過去のストーリーを振り返るけどそれが現状の改善に役立てるかというと微妙。だってこのままじゃ死にそう。人類二人だけだし、帝さんは肉体改造済みでタイマン晴れても私とハクはおそらく最弱子供以下。さてこれからどうしようか? 
 ハクと名付けられる男は記憶が無いからか大混乱の真っ只中だ。クオンに名を聞かれとりあえずナナコだよとだけ名乗って置く。記憶があるかハクに尋ねられ、あんたみたいにコールドスリープする過去持ちじゃないから既知トリップじゃないかなって言ったら、なんだ? って返されたので、やっぱ逆行でもないのね、こりゃ登場人物相当死ぬね、はは辛っ……て感傷は胸の奥にしまっておいた。
「なんでも。わけわかんないこと言ってびっくりしたら思い出すかと思ったけど、やっぱ無理だったか。ショック療法もあてにできないとは困ったねえ」
「なんだよ、いきなり変なこと言うから自分の事情知ってるのかと思ったわ」
「ごめんね〜、知らないわ。私の知り合いに貴方みたいな人はいないのよ」
「ナナコは記憶があるのよね」
「自分の家族構成とか何してたかは分かるけど、それ以外はさっぱり。いつも通り過ごしてたらいきなり雪原に放り出された、ってことしかわかんないわ」
「打つ手なしか……」
 ハクはがっくり項垂れている。クオンに故郷を聞かれ日本って元気よく返せば聞いたことがない地名ねと返され苦笑いしてようやく実感が湧いてきた。
 ああやっぱり異世界トリップだわ。なんの予兆もなかったよと思い返して、とりあえず浮かんだ家族の顔に、推しキャラと幸せになれるかも応援しててねとふざけてみたが馬鹿じゃねえのと返される姿しか浮かばない。よし、ちよっと元気が出た。じゃあトリップする直前私はどうしてたのか考えるけど、どういう訳か、前後の記憶は抜け落ちている。
 ……まさかハクと同じような展開じゃないよなと自問しても答えは出ない。
 名前もない住所もない、着ているのは布きれ一枚のないないづくしの私たちは困って顔を見合わせるばかり。
「養って」
「オレの方が言いたい」
 憐れんでくれたのか、クオンは替えの服と名前をハクに与えた。当面は面倒を見てくれるらしい。ハクは服を着る騒動から尻尾で引っ叩かれぶっ飛ばされ(亜人にとって急所の尻尾をいきなり掴んだりちん〇意図せず見せたりしたのだからそこは甘んじるべきだと思う)、少々不機嫌ではあったが理由をクオンが説明すれば納得はしたのでこれからも大丈夫だと思う。
 私は大人しくされるがままハクを追い出したクオンに着替えさせられ何故か頭をいい子いい子された。
 昼食を作るというので手伝いを買って出たが(ハクはめっちゃ嫌そうだった)、保護者の義務だからと断られ暇を潰してていいよと外にしっしされる。
 謙虚だよなあとごちるハクだけど、酷使されるのはもう少ししてからだから束の間の安息を楽しんどこう、というのは黙って置いた。しかし暇を潰せと言っても手持ち無沙汰、今後のためにとりあえず筋トレしとこうとスクワットするとおまえ元気だよなあとハクが淡々と呟きヤンキー座りでどこか遠くを見る。
 晴れた空に広がるのはだだっ広い雪原ばかりだ。
「とりあえず、食いっぱぐれなくて良かったよな」
 おまえは数百年寝てたのに元気だよな。ぼんやり草を引き抜いたり空を仰ぎ見るハクが話しかけてきたのでそうだねと返す。
「おまえの家族、きっと心配してる。早く山降りないとな」
「あ、多分いないわ。この場合おそらく全滅ね」
 数百年、下手したら数千年後の世界で家族が生きてたら逆に怖い。
「全滅って……」
 ハクは絶句し二の句を告げられない。多分良くない連想をさせたんだろう、ちょっと訳ありだから話したくないって言えば色々察してくれたのか、不躾に聞いて悪かったなと頭を下げてくれた。怠惰なくせに律儀なのがハクの欠点でもありよい所だけど、私の家族は数百年前は普通に元気だから誤解をさせて申し訳ない。
 気にしてないからと話を切り上げこれからどうするか尋ねてみた。
「私、行く当てないからしばらくはクオンさんに付いてくつもり。ハクは?」
「お、おうそうか。まあオレも似たようなもんだから付いてくつもりだが、いいのか?」
 会ったばかりの人間をそう簡単に信用して? と言いたげな彼に、うんと頷く。
「他に頼れそうな人もいないしね。このままだと野垂れ死には確|かだし」
「まあな、どう見ても頼りになる人間はこの辺りにはいなさそうだし」
 人里どころか民家もない山だもん、望んでこんな所くるなんて生粋の猟師かよほどの酔狂自殺志願者ぐらいなもんだよねえ。あんたの兄貴は町で帝やってるけど。くうう、明かしたらどんなに心地よいか、真っ先に宮殿に生き別れの兄を尋ねに行かせて帝弟として迎えられれば後の不幸を止められるんだろうか、それとも不敬罪で投獄されるのか試したい。でもハクには幸せになってほしいから試さないのが得策なんだろう。
「おいどうした」
 おおと、物思いに耽りすぎた。
「ごめん、ぼうっとしてた」
「元気出せよ、まあ右も左も分からない状況で元気出せってのも無理な話か。落ち込んでると風邪引くぞ。ほら病も気からだろ、せっかく生きてるんだから家族の分まで生きて幸せになってやれ、って悪い。さっきから余計なことばかり言ってるなあ」
 おお、励ましてくれてる? ハクは優しいなあ。
「いいよ、心配してくれてありがとうね」
「おう」
 まあそりゃそうか、記憶も無いなか一緒にいた人がしょんぼりしてたら気になるよね。ああ、その物憂げな表情を見てるとなんだか寂しくなってきちゃった。私もハクに元気になって欲しい。
 頭に両手を当ててハクみてみてと指を上下動かしてみる。ハクはどうしたと怪訝な顔。
「尻尾、可愛かったよね」
「ああクオンか? まあ可愛い部類に入るよな。猫っぽくて」
 そうだね、猫みたいで可愛いよね。でもこの世界猫絶滅してるからもう見えないんだわ。言動には注意しないと。ハクにも後でそれとなく伝えとこう。
「耳もピコピコ」
「あ、ああ。触ると柔らかくて暖かいしすべすべしてた。確かに可愛いに入るなありゃ」
「でもハクにはついてないね」
「おまえもないな」
 そうだね、一緒だね。今のところ世界で二人きりだ。
「尻尾も耳もない仲間だね」
「おまえもないの?」
「私もないよ、だから一緒だ」
 頭から手を下ろし髪で隠れた部位をめくって見せる。本当だとハクも自分の耳を掻き分けて見せた。どこから見ても人間だ……人間の耳でしかなかった。手を下ろし微笑めばどこか消沈した風にぎこちなく返してくれた。落ち込んでいると察して私は励まそうとハクに手を伸ばした。男の人の手なんて握ったことないから少し勇気がいったけど一度握られてるんだ構わないと手に取れば、拒否されず受け入れられたことに安堵した。思ったより暖かかい。
「ハクがいるから寂しくないよ」
「へえ、良かったな」
 あ、苦わらい。
「悲鳴、めっちゃ助かったよ。ほらあの化け物に追われてるとき。貴方の悲鳴で私走れたから」
「あんなんでか」
「あんなんでも。私だけならきっと怖くて一歩も動けない。おかげで助かった。今更だけどありがとう」
「……そりゃどうも」
 元気がない、ハクにちっとも元気がない。ゲームだと休みたいだの怠けたいだの言いつつ窮地には全力で皆を助けていたあのハクがしょぼくれて元気がない。腰が曲がっちゃってる。
 ハクに元気を出して欲しくて私は言葉を重ねる。
「ハクに会えて良かった。一人だと心細くてここまで来られなかったし。
 ねえハク、これからもずっと元気でいてね、テンパってあまり格好良くなくてもすぐ疲れちゃってもさ、そんなハクが私は好きだよ。これからも前を向いて生きていってね。頑張りすぎなくてもいいからね」
 そんでオシュトル死亡フラグを打ち消せ。なんてのは心の内に留めたけれど、勢いのまま言い切ったところで冷静さを取り戻した。
 私、ちょっと恥ずかしいこといってない?
 我に返ればハクもぽかんとしていて少し経つと俯き顔を覆った。ついで私の頬も熱くなり、気まずさから居たたまれなくなる。
 単に応援してると伝えたかっただけなんだけど出会って数時間の相手に送るエールとしては過剰すぎたかもしれない。
「……なあ、もしかしなくても、オレ、口説かれてるの?」
「最愛は他にいるんで顔面残念はノーセンキュウ」
 ひっでえのと溜息をついたけど彼はようやく力の抜けた笑顔を見せてくれた。励ましてくれてあんがとなと呟き立ち上がる。よかった、少しは前向きになれたみたい。
 ほっとして私は片手を差し出した。
「よろしく、ナナコだよ。足は引っ張らないようにお願いします」
「こっちの台詞だ。まあしばらく頼むなナナコ」
「ばっちこいよハク、いい男いたら紹介してね」
「本当おまえ調子いいな」
 大丈夫ハクだけだ。他の奴にやったらおそらくワンパンキルよ。
 言わない言葉を飲み込んで、することもない私たちはそのまま二人靜かに待った。私は主に筋トレでハクは疲れたと木により掛かり立っていたけど。

 少し経ちご飯が出来たよとクオンに呼ばれた。二人いそいそ雁首そろえて急ぐと、もう仲良くなれたの良かったねと声を掛けられた。ごつい男料理を頂きながら迷子仲間だからと言えばそんな仲間はゴメンだとハクはごちるけど、隣に座ってくれて心強く感じた。

「おまえとなら、色々あってもなんとかやれそうだわ」
 おかわり攻撃を躱しお腹いっぱいのご飯を頂いた後、私たちはクオンの指示に従い荷を片付け里を目指し雪道を歩いていた。足早に進むクオンの後を続く道中の間、先行くハクがぽつりとこぼした。
「いい男いたら速攻嫁ぐから短い付き合いになるかもだけど」
「変わり身早すぎだろ……」
 お前らに付き合うと道連れで死にかねないんで途中退場は大目に見てくれ。推しキャラは死が確定してるから連れ添うつもりなら頑張らないとどのみち死ぬ。やれるだけはやるつもりです。なので見捨てないでくださいクオンさん! 貴方に見捨てられるとヤマトがピンチです!
 脳内で展開するゲームのもしもの可能性、阿鼻叫喚の地獄絵図に怯えながら、自分を奮い立たせるためにも私はあえて茶目っ気たっぶりで軽く二人に手をあげた。
「まあよろしく」
 突っ込みか失笑を予想したが保護者様は華麗にスルーして頬を膨らませ不満気に唇を尖らせる。
「二人ともこれからお世話になる保護者に挨拶は?」
「よろしくお願いしまーすクオン様! クオン様だけが頼りです」
「様はいらないかな?」
「クオンさん!」
「本当おまえ調子だけはいいよな」

 目指す人里はまだ遠い。一休みしたとはいえ足はもつれ膝が震える。ハクも気丈に振る舞っているが気をつけてみれば同じくふらふらだ。血豆も出来てきっと潰れている。私も痛くて辛いけど、ハクが頑張ってるんだ。先を知るものとして後れを取ってはならないと謎の義務感でついて行くけど、辛いものはやっぱり辛かった。
「あと少しだから頑張ろうね」
「もう少しだってさ、めげずに頑張ろうな」
 互いに励ますがハクも中々しんどそうだ。表情がこわばっている。先の展開を知るからかなんだか可哀相になって頭に手を伸ばし撫でてみる。これからキツい展開が山のように続くんだ、少しぐらい労ってあげたかった。ハクにはぎょっとされたけど、好きにさせるのが早く終わると思ったんだろう。立ち止まり少しだけ頭を撫でさせてくれた。可愛いなあ優しいなあ。
「大の男を撫でて、なにが楽しいんだ?」
 さすがに気まずくなったのか、手を払われる。
「私も大人、頑張った人を褒めるのは年長者の義務だよ」
「どんな義務だよ」
 主に先達として?
「一番の年長者は私かな、保護者だし。というわけで二人だけで仲良しこよしは程々にして先を急ぐよ。夜までにつかないと危ないからね。
 ハクも、頭を撫でられてる間は休めるからって止まらない。男としての矜持を見せないと」
「ちえ、ばれたか」
「休憩終わり」
「はーい」
 クオンの拍手で止まっていた足を動かす。足をぷるぷるさせたハクが手を差し出してきた。
「しんどいなら引っ張ってやる。男としての矜持をみせんとな」
 私より膝震わせといてよく言うよ。
「いいの?」
「おう、迷子仲間だろ」
「そっか」
 お言葉に甘えて手を繋いだ。できるだけ負担にならないよう急いで進む。
「頑張れ、里に下りたら休めるって話だ」
「寝れるといいね」
「寝れるだろ、里なんだから。横になって一休みすりゃ元気が出るさ」
「お酒あるかな」
 酒よりぶっちゃけお茶がいい、とは言わずに置いた。飲みたいお茶はきっともうどこにもない。安全で飢えずに過ごせるならこの際どこでもよかった。
「あるといいよな。一飲みすりゃ天国さ、そっから先はなんとかなるだろ」
 ならなかったんだよね、貴方の場合。こちらの心配も知らずハクは暖かい寝床を夢見て先を行く。
「さっきより酷い状況はそうそうねえだろ」
 化け物に追われたことを言ってるんだろう、思い返し否定する。彼はこれからだ。大丈夫、地獄はまだ先にある。ああ痛い、胸も痛いが足も痛い。今後のためにと筋トレしてみたけどインドア派が急に動いても足を痛めるだけだった。もっとちゃんと休んでおけばよかった。
 でも頑張るしかない。今は何もなくともヤマトは後に戦乱のただ中に落とされる。帝は暗殺されハクが後に平定するも末路はこの世から消滅、そんな未来はゴメンだ。仲間が戦乱で死んでいくのもゴメンだ。ならば私が変えるしかない。戦に傾く未来を変えて大好きなキャラ立ちに平穏を。それがこの世界に現れたうたわれ好きの現代人の使命だと信じて。いや信じないと潰れそうだった。だってここ本気で化け物しかいないから。
 地上にはこびるのは遺伝子改良で強化された生命体ぐらい。旧人類のハクはいじってないから体力も腕力も無いと原作で私は知っている。旧人類に属する私はおそらくハクかそれ以下だ。ああ生きびたい、生き延びてのんびり人生を謳歌したいが、未来を変えない限りはのんびりした余生を送れないのはわかっていた。
 とりま安全確保と大人しく歩いているけれど、体力が普通以下なんてクオンにはそんなこと知ったこっちゃ無い。ハクに引っ張られ痛い体を引きずって、見知らぬ世界に現れた初日はインドア派の私には辛いものだった。

 予感は確証に至る。道中襲ってきた野犬を弱いから叩いて追い払えと言われてハクが叩くがびくともしない。私も叩くが怒らせただけ、クオンは首を[傾|かたむ]け一撃で野犬のオルケという生き物に悲鳴をあげさせあっというまに追い払った。
「二人とも、もしかしてすごく弱いの? 子供でも追い払えるのに」
 二人して顔を見合わせ苦笑するほか無かった。
 ああ生き延びたいけれど、生き延びれる気がまったくしない。
 もうやだ、この世界怖すぎ。



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