1仮面少女の独白




欲望は子供から大人まで誰もが持つものだ。
でも、中でも大人の欲望はドス黒くて、周りの人の人生すらも腐らせていく泥のようなもの。
ある人は自分のことしか頭になくて、
ある人はお金のことしか頭になくて、
私の周りの大人は殆ど"嫌な大人"だった。
こればかりは運が悪かったとしか言い様がない。

父が出て行ったあの日から、
いいや、それより前の、父に出会う前から母は"そういう大人"だったのかもしれない。
母は"母に惚れた父"が好きだった、
"結婚記念日に贈り物をする父"が好きだった、
"私を可愛がる父"が嫌いだった、
"仕事を優先する父"が嫌いだった。
あの人は自分を優先してくれる人が好きなのであって、一番にしてくれない人は嫌い。
だから、父のもう一人の一番だった私が嫌いなんだ。
父から一番の座を貰った私が憎い、でも手を出したら父の一番じゃなくなる、だから我慢する。
そんな子供じみた、"子供がそのまま大人になったような人"だった。
父は"家族思いの良い父親"という肩書きが失われることを恐れて私達の綱渡りの間柄を見て見ぬフリをしていた。
だからずっとそんな関係が続くのだと思っていた。

けれど、何の前触れもなく父はいなくなった。
何故いなくなったかは分かる、この関係に疲れたのだ。
最初から存在しなかったかのようにある日の朝には消えていた。
いつの間に引越しの用意をしたのかというのはあまり気にならなかった。
それよりも、私と母が残されたこと、ただそれだけが気がかりだった。
当然ながら母は怒り狂った。
怒りの矛先はもちろん私。
言葉と手近な物を振り回すことも今となっては"日常"。

誰かに相談しようとは思わなかった。
外では"父を失った娘の為に毎日仕事を頑張る健気な母親"だから。
誰もがその仮面に騙されて裏側には気付かない。
だったら、私も仮面を被ろう。
"娘思いの母親"には"母親思いの娘"を。
知識も運動神経も先生からの信頼も、全て必死になって得たもの。
"文武両道の委員長"でいれば私はこれ以上傷つかずに済む。
これまでもそうやってきたのだから
こんな、この世に現れた地獄のような学校生活も耐えられる筈なんだ。






後書き

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