6X月X日
気分までも暗くさせるような薄暗い雲が空を覆う某日。
カモシダパレスから無事オタカラを盗み出した怪盗団は元の高校生活に戻っていた。
始めてだらけの試みに一同は興奮を隠せず、そわそわとしている。
「しっかし…辻元が今までの証拠突き出して鴨志田に直訴してなかったらヤバかったかもな俺ら。」
「そうね…いざと言う時には証人にもなるって言ってくれたんでしょ?
…助けられてばっかりだね」
思いがけない援軍は暁のクラスメイト 辻元渚。
しかし今日は体調不良とのことで休みであった。
「でも何で急にそんなこと言い出したんだろ?
言い方悪いけど辻元さんってあんまり人と関わりたくなさそうな雰囲気だし。」
「あー、確かにな。俺、あいつが誰かと喋るのあんまり見たことねぇし。」
2人の疑問に暁は顎に手を添えて考え込む。
暁も彼女と話したのは転校初日と鴨志田について聞き込みをした時くらいだ。
何かしら心境の変化があったか或いは来栖達の行動に思うところがあったのかもしれない。
そう考えていた時に携帯がチャットの通知を受け取った。
相手は三島、怪盗お願いチャンネルに気になる書き込みがあったという知らせだった。
言われた通りにその書き込みに目を通す。
「ええと…『はじめまして、クラスメイトからこの掲示板を紹介されて来ました。
怪盗団の皆さんにお願いがあります。私の母を改心させてください。
このままでは私は母に殺されることでしょう。』」
「こ、殺されるって…」
物騒な言葉に全員がたじろぐ。
緊急案件と見倣し、 再び画面に視線を落とす。
「『母の名前は辻元美波です。
この書き込みが怪盗団の方々の目に留まるかはわかりませんが、どうかよろしくお願いします。』」
「辻元…?」
話題に出たばかりのクラスメイトと同じ苗字に全員反応を示す。
と、ここで川上が職員室から教室へと引き返してきた。
「悪いんだけど誰か辻元さんに試験期間中の日程プリント届けてくれない?」
ちらほらと残っていたクラスメイト達は互いに顔を見合わせる。
まるで汚れ仕事の押し付け合いのようなざわめきに杏は溜息をつき、挙手をした。
「私が行きます。」
新宿 住宅街
繁華街から少し離れればそこは閑静な住宅街。
その一角にある家に彼等は少しの緊張と共に訪れた。
屋敷とまではいかないがそこそこの規模のものに全員呆気に取られる。
「いい家住んでいるんだな。」
「俺の部屋何個分だ…?」
「あの書き込みが辻元さんかどうかの確認と、辻元さんのお母さんの調査…でいいんだよね?」
「ああ、多分親が出てくるだろうからお前達は時間を稼いでいてくれ。
その隙にワガハイが調べてくる。」
辻元と書かれた表札の下のチャイムをそっと押す。
数秒ほど経ち女性が訝しげに外に出てきた。
容姿からして辻元美波と推測できる。
「私達は渚ちゃんのクラスメイトで…えっと、試験期間中の日程のプリントを届けに来ました!」
「そう…わざわざありがとう。
せっかくだからお茶でも飲んでいって。」
思わぬ優遇に誰もが驚いた。
母親に殺される、なんて書き込みから虐待を予想していた。
そして虐待をした親というのは子供の関係者を家にあまり上げたがらないものなのだが、真逆の行動をとられては驚きは隠せない。
しかしせっかくのチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「渚ちゃんの容態はどうですか…?」
リビングに案内された直後、杏が尋ねてみる。
これで何か情報を得られるとは思えないが、まずは"クラスメイトを心配してお見舞いにきた優しい生徒"としての質問から始めるのが基本だ。
「朝からずっと寝ているから…食欲も無いみたいで。」
美波の意識が完全に暁達に移った瞬間にモルガナがそっとリビングを出た。
部屋は2階にありそうだ、とアタリをつけて静かに素早く階段を登っていく。
家の構造を完全に網羅できたわけではないが、外観からある程度は予測がつく。
母子家庭なのは事前に把握済みのため、彼らが時間を稼いでいる間この家で他にいる人間は彼女だけだ。
手慣れた様子で一室ずつ確かめていくが、
全ての2階の部屋を見ても渚はいなかった。
道中、彼女の部屋と思われる部屋もプライバシー侵害にならない程度に探したが、影も形もない。
まさか1階か?そう思い至り、慌てて降りる。
リビングからはまだ話し声が聞こえてくる、時間稼ぎにもそろそろ限界が見えてくる頃だ。
キョロキョロと辺りを見回したところで、階段の影に隠されている物置への入り口を見つけた。
嫌な予感がする。
モルガナは意を決して扉に向かって一鳴きした。
一方、リビングにいる暁達はというと
時間稼ぎの雑談に一区切りついた彼女が飲み物を用意するためにキッチンに行ったため、小声で話し合っていた。
「話した感じは普通だよね?」
「偶然名前が一緒…ってわけでもなさそうだしな。」
「そう簡単に本性を初対面の人間に見せるとは思えない。」
「っていうかモルガナ遅くない?」
「確かに…何かあったのか?」
全員顔を見合わせ、今度はモルガナを探しに行くかどうかを話し合う。
だが、盆を持った美波がちょうど戻ってくる。
「何だかずっと話していたみたいだけどどうしたの?」
「えーっとぉ…お手洗い借りられないかなぁって…」
彼女としては迫真の演技のつもりなのだろうが
妙な抑揚と引きつった笑顔がどうにもわざとらしい。
これには美波も眉を顰めている。
「…それなら廊下の突き当たりを右に。」
「あ、ありがとうございまぁす!」
ニコニコと笑いながら部屋を飛び出す。
男子2人は杏の後を追う。勿論トイレに用はない。
言われた場所とは逆の方向に曲がった辺りから猫の鳴き声が聞こえ始め、足は自然と早足になる。
それを頼りに辿り着いたのは古びた物置部屋の入り口。
その扉に向かってモルガナが必死に鳴いていた。
「ここだ!中から音がした!」
「で、でもよ…これって物置じゃね?」
竜司が戸惑いの声を漏らす。
暁や杏も疑わしそうに扉を見つめる。
すると、扉の向こうから小さな声が聞こえてきた。
「誰かいるの…?」
少々聞き取りづらいが声の主は間違いなく辻元渚のものだった。
まさか物置にいるとは思わなかったのか、全員が言葉を失くす。
「辻元さん!高巻杏だけど!何で物置に!?」
「えっ?高巻さん…?何でって言われても…」
その言葉には困惑の色が混じっていて、彼女の狼狽える様子が手に取るように分かる。
「辻元さん、落ち着いてくれ。
俺達は掲示板の書き込みを見て確認しに来たんだ。」
こんな時でも冷静な暁の声に感化されたのか、彼女も落ち着いた様子で返答する。
「…お願いチャンネルって本当だったんだ…
あれ…?でもそうしたら来栖君達が怪盗団…?」
本人に確認を取りに来た以上、正体がバレるのは想定内だ。
「ええと…私がここにいる理由だったよね。
それは…」
後一歩で真実に迫れる、というところでタイムアップだったようだ。
中々戻らない一同を探しに来た美波がこちらに来ていた。
「そこで何をしているの!?」
どうやら彼女の怒りの末端に触れてしまったらしい。
家が広くて迷ったのだと杏が誤魔化すが通用しているかどうかは分からない。
暁は竜司の影に隠れながら後ろ手にメモをドアの隙間から差し込んだ。
「何かあったらここに連絡をくれ。
必ず、助けてみせる。」
挟まれたメモが向こう側に引っ込む。
怪盗団の大根役者の限界を察し、暁は撤退を指示した。
辻元家を出た彼等はこれからについて話し合う。
「これからどうすんだ?」
「早速パレスに乗り込む?」
塀に寄り掛かった杏が真剣な顔で提案する。
今回はパレス攻略に使える時間が少ない。
期限が分からないからだ。
いつ辻元美波が渚に手を出すかが予測出来ないというのが最大の懸念事項。
「乗り込む案には賛成だが、まずはキーワードだな。」
イセカイナビを起動し、画面を睨む。
「まずは名前…『辻元美波』っと…」
音と共に機械音声が当たりを知らせた。
「場所は…どう考えても自宅でしょ。」
杏が発した『自宅』に反応するナビ。
本人と会話した時にある言葉から辻元美波のパレスが自宅ではないかと思った一同だったが、当たりだったらしい。
"あの人が出て行ってからこの家もすっかり寒くなったわ"
これで残りは『どう認知しているか』だけとなった。
だがここが問題だ。
時間稼ぎの世間話からある程度は候補を絞り、ナビに入力したがどれも外れらしい。
「辻元さんに連絡先を渡したからチャットで聞いてみよう。」
チャットに素早く文章を打ち込み送信する。
すぐに返事が来ることに賭けるしかない。
数十秒して軽快な音と共にメッセージが表示された。
後書き