夏の虫の話

 99.

そんな彼女が今、友人とライブキャスターで話をしている。
友達と電話なんて珍しいね、と言うと、友などではない、と怒られてしまった。

相手は、ホドモエシティで出会った女の子……ミツキちゃんの唯一の手持ちポケモン、ニセハッサムくんだ。
彼から、彼女へ連絡があったのだ。
話したいことがある、と。

そうか、そうか、と穏やかに相槌を打つ彼女の様子からして、どうやら良い知らせの様だ。
後でゆっくり、聞かせてもらおう。

「ああ、またな」

そんな事を考えているうちに、彼女はライブキャスターを切ってしまった。
なんだ。もっと話していてもいいのに。

「なんだアーティ、その顔は。にやにやしおって」

「いやぁ、別に。それにしても、びっくりだよ。キミとニセハッサムくんって、仲が良かったんだねぇ」

「……」

あからさまに嫌そうな顔をする彼女に、ボクはまた笑ってしまった。
でも、ボクは嬉しい。
色んなキミの表情を、見ることが出来て。

「貞女」

呼び掛けると、彼女が振り返る。
可憐で、儚く、美しい。
あの頃の自分に、見せてやりたいと思う。
そう。ボクはまだ、キミに見せていない景色があるんだ。

「長い休みが取れたら、シッポウシティへ行こう。キミに、見せたいものがあるんだ」

あの風景を見て、キミはどんな表情を見せてくれるんだろうね。
ついでに、あの時のボクの気持ちも、一緒に聞いてくれるかい?
昔ばなしをしよう。

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