夏の虫の話

 98.

「そんな時に脳裏を掠めるのは、他でもない、私の子供たちなのだ」

そう言って彼女は、ふ、と吐くように笑った。
その目はまるで、自らを蔑んでいる様に見えた。

「今でもこうしていると、ふとよぎる。この花の可憐さを、木立のささやきを、風の匂いを、あの子らに見せてやりたかったと。否、共に見ていたかった、と。……皮肉だと、嗤ってくれ」

「嗤わないよ」

ボクへと視線を移す、彼女。
キミの懺悔の様な言葉を、ボクが聞いて、その罪を許してあげることは出来ない。
裁くべきは、ボクではない。
彼女も、そんな事は分かっているはずだ。

けれどボクは、安心したんだ。
彼女が、ボクと似た感情を持ってくれているということに。
だからボクは嗤わないよ。
キミが嗤われるときは、ボクも一緒だ。

「その気持ち、ボクは大切だと思うよ」

大切にしてほしいと、思うよ。
愛しいと、思うよ。
美しいものを見せてやりたいと、想う心が。
共に見たいと、願う心が。


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