夏の夜の下
109.*****
埃っぽい空気に、湿気った紙の匂い。
むせ返るような熱と湿気が身体を覆い、じっとりと汗が滲み出る。
ワンピース型の寝間着が身体にはり付いて気持ち悪いが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「ここはどこなの? 本当に……」
昨夜、陽と星を見た後、二人でポケモンセンターへ帰ったことを私は覚えている。
その後、珍しく陽が一人になりたいと言って、部屋を出て行ったことも、私は覚えている。
この頃はばたついて、二人でのんびりと部屋でくつろぐことが少なかったものだから、少し意外だった。
……まあ、彼自身、色々と思う事があるのかもしれない。
そう考え、ドアの外へ出て行く彼の背中におやすみと告げ、床に就いたのだ。
そして、目覚めたらここにいた。
デジャヴだ。
この世界に来た時と、同じことが起こっている。
そう感じた。
あの時と違うのは、ここが室内であるということ。
そして、
「閉じ込められている……?」
完全な封鎖空間ではない。
しかし不自然なこの部屋は、私の足をただただ迷わせていた。
窓の無い、広い木造の部屋。
そして、微かに見える大きな昇り階段から光が差し込んでいるところをみるに、恐らくここは地下室なのだろう。
埃が舞い、多くの蜘蛛の巣が張り巡らされ、古びた椅子や机が鎮座している様子から、廃屋なのだろうとも窺える。
歩く度、ぎしぎしと床が鳴る。
「ここも行き止まりね……もう。さっきの場所へ戻るしかないわね」
この空間にひしめくのは、大量の本。
横を見ても下を見ても、上を向いても、本が見えるのだ。
きちんと本棚に収められているものもあれば、平積みにされていたり、開きっぱなしの本もある。
その本や本が整頓された棚。机。椅子。これらが私の行く手を阻んでいる。
「おかしいわ……。さっきまでここに机なんて無かったのに」
……先程からこんな感じだ。
このままでは埒が明かない。
闇雲に動き回っても、無駄に体力を消耗するだけだ。
ここは、解決策を考えつくまでじっとしていよう。
埃を少し払って、本棚を背もたれにして床へ座り込んだ。
前にも後ろにも、本。本。本。
……本なんて、旅をしていたからしばらく読んでいない。
「ちょっとだけ、読んでみようかしら」
そう独りごちて、私は手近にあった本を取り、ページを開いた。
prev / next
[ back ]