夏の夢の家

 110.

どこかの国の、冒険記。
荒波を潜り抜け、無人島に漂流した十五人の少年たちは、アザラシにペンギン、更には海亀までをも自らで調達し、調理し、食していた。
海亀の殻を剥がし、さばく。
これらの行為に、物語を読んでいた当時の私も多少なりと慄いたものの、不思議と彼等の食事は美味しそうに思えた。
つまり何が言いたいかというと、今、私はとてもお腹が空いてしまったのだ。
七面鳥の塩漬け、なんて、美味しそうでいいかもしれない。

「食べ物に関する本は、読めないわね……」

読んだらきっと、頭がおかしくなってしまう。
そんな事を考えていた。
いくらこの地下室が比較的涼しい場所であるとはいえ、季節は夏。
何時間もこのままの状態では、干からびて死んでしまいそうだ。
文庫本ほどのサイズの本を棚に仕舞い、新しく硬い装丁の本を取り出す。

「これも、夢の本……。どういうことなの?」

先程から、少し気になっていた。
目に入ったいくつかの本を手に取ってみたが、それらはどれも、夢に関する書籍ばかりだった。
この奇妙で大きな書斎は、置いてある本までもが不思議な雰囲気に包まれている。

「スリープというポケモンあり。眠らせては夢を食べるが、悪い夢ばかり食べているとお腹を壊すことがあるらしい……か」

夢を食べるなどという非科学的な事をする割には、悪いものを食べるとお腹を壊すだなんて。
全く、現実的なのか非現実的なのかよく分からない。

「この本は……、遠くシンオウ地方にダークライというポケモンあり。自分を守るために、周りに悪い夢をみせるなり」

分厚い本の、冒頭部分。
自分を守るために、相手に悪い夢をみせるとは。
正直、どういうことなのかさっぱり分からないが……。相手を眠らせている間に自分が逃げる、ということだろうか。
そういえばさっき、それとは対になる様な文章を見た気がしたのだが、あれは

「おねえちゃん、なにしてるの?」

突然、背後から声がした。


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