夏の夢の家
111.明るい銀色の癖毛に、赤い瞳。ゆらりと揺れた黒いポンチョ。
可愛らしいその声の主に、私は見覚えがあった。
「あ、あなた……、ポケモンワールドトーナメントの、会場にいた……!」
「ぽけもんわーるど……? ええっと、ひさしぶりだね。ふしぎなあわのおねえちゃん」
……不思議な泡とは、きっとシャボン玉のことだ。
この子はいつだったか、ホドモエシティに隣接するバトル施設――PWTの広場で出会った、シャボン玉のおもちゃを渡してあげた男の子だ。
人懐こい笑みが、私を引き寄せる。
「どうしたの、こんな所で。……迷子?」
近付いて、目線を合わせる。
……まあ、私も迷子といえば迷子なのだが。
心の中で苦笑していると、男の子はにこにこと笑って応えた。
「ううん。ちがうよ」
「え?」
違う?
こんな所にいて、迷子ではないというのか。
……だとしたら、案外この建物は人通りのある街中にあるのかもしれない。
どうやって私がここへ来たのか、自分でも分からないが……、取り敢えずは安心だ。
「それにしても、偶然ね……。お久しぶり」
ここからPWT……ホドモエシティまで、随分と距離がある。
こんな小さな男の子がここまで一人で来るとは考えにくい。
もしかすると彼は、この辺りに住んでいる子供なのかもしれない。
「君、この辺りに住んでいるの?」
「え? うーん、そうだね。むしろ、ずっとここにいるよ?」
……? ここに?
予想外の応えに、少し面食らう。
真っ直ぐな瞳で見つめてくる彼には言い辛いが、私には、ここが長時間過ごせる様な環境だとは思えない。
しかし、彼が嘘をついている様にも思えない。
ずっとここにいる、か。
こんなに、小さい子供なのに。
……あれ?
そういえば、私にもそんなことがあった気がする。
家よりも友達の家よりも長い時間を過ごした場所が、あった様な気がする。
……もしかして。
「もしかして、ここは君の秘密基地なの?」
「ああっ、そうだね。そんなかんじ!」
「なるほど……。わぁ、なんだか懐かしいなあ。私もよく遊んでいたよ、秘密基地」
「えっ、そうなの?」
「そうそう。こんな、立派な基地じゃあなかったけどね」
「そうなんだ! うわあっ、すごいすごい! いっしょだ! おねえちゃんと、いっしょなんだね! ねえねえおねえちゃん、ぼく、おねえちゃんのおはなし、いっぱいききたい!」
「ええ? 私の?」
「うん! いっぱいきかせてよ!」
無垢な笑顔を浮かべ、小さな手で私の腕を引っ張る少年。
……こんな可愛らしい誘いを断れる方法があるなら、誰か教えてほしい。
まあ、ここから出る方法は、彼に問えば分かることだろう。
私は促されるまま、書斎の奥へと入っていく少年の後を、ついて行った。
*****
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