夏に似た瞳
120.黒いシルエットが浮かぶ。
朱い目をしたその生き物は、金色のファスナーのような口元を吊り上げて、俺に笑ってみせた。
「それじゃあおにいちゃん、さようなら」
「え」
「陽さん危ない!!」
その瞬間、俺は何かに吹っ飛ばされて、向かい側の壁に背中を打ち付けた。
痛いのとびっくりしたのとで、頭がくらくらする。
じんじんと痛みの広がる背中が、早く目を覚ませと俺に警告している。
「間に合わなかった……」
黒いシルエット……ジュペッタの前で倒れているタブンネが、俺を心配そうに見つめている。
……どうやらジュペッタの攻撃から俺を庇おうとして、俺自体をすっ飛ばしたらしい。
いやいや。どう考えたって、今のは捨て身タックル並の威力だったぞ……。
あれ。でも今、間に合わなかったって……?
「じゃましないでくれる?」
そう言って、ジュペッタはその朱い瞳で、横たわるタブンネを睨みつけた。
見下ろされたタブンネは怯むこともなく、きっと睨み返した。
「あなたは今までこうして……こうして、何組ものトレーナーや、ポケモン達を……!」
「うーん……? ふふ、きみがなにをいっているのか、ぼくにはさっぱりだよ」
「すっとぼけないでください……!」
……一番すっとぼけてるのは、他の誰でもない、この俺だと思う。
何だ? 一体、どういうことなんだ……?
「陽さん! 早くポケモンセンターへ帰って治療を……! そしてこの状況を、ジョーイへ伝えて下さい、早く!!」
「あ、ああ……!」
治療……?
よく分かんねえけど、必死なタブンネの声で自分を奮い立たせ、床を踏みしめる。
「あれ……」
どういうことだろう。
足に、力が入らない。
「陽さん! もう、呪いの効果が……!」
呪い……?
そうか、しまった。
さっき俺がジュペッタから受けた攻撃は、呪いだ。
あいつはゴーストタイプだから、呪いの効果は……、
「おにいちゃんのいのち、すこしずつけずらせてもらうよ。ふふふ、だいじょうぶ。ころしたりは、しないから」
くすくすと、口元を黒い手で隠して笑うジュペッタ。
なんで……なんでそんなに楽しそうなんだ、お前……。
「これで、おねえちゃんと……ミツキおねえちゃんと、ずっといっしょにいられる……」
そう、幸せそうに微笑むジュペッタ。
ちょっと待て。
おねえちゃんって、ミツキおねえちゃんって……。まさか、お前が……?
「お前が、ミツキを連れてったのか……?」
prev / next
[ back ]