夏に似た瞳

 129.

冷たい水滴が、ごつごつとした岩肌を滑る。
ひんやりとした空気の中に、少年のアルトボイスが響いた。

「うわぁーおにいちゃん。そのかっこう、なんどみても、きょうれつだよぉー……。べとべとー……」

「お前なぁー。この俺のおかげで洞窟の奴らとバトルしなくて済んでるんだからな。ありがたいと思えよ!」

「おいそこの坊主共、うるせえぞ。そこのダンゴロ達が起きちまうだろうが」

「……」

「……」

随分と賑やかな声を響かせて、静かな休火山の中に出来た洞窟の中を今、私達は歩いている。
このリバースマウンテンを抜ければ、誰もが羨む常夏のリゾート地、サザナミタウンだ。

「もうすぐで出口だよ。頑張ろう」

「はぁーい……」

今、私達がサザナミタウンに向かっているのは、現在そこに滞在している、シキミさんと合流する為だ。
なんでも今、シキミさんは夏の長期休暇で、バカンスの真っ最中らしい。
休暇中にも関わらずこんな厄介事を引き受けてくれた上、一山超えてヤマジタウンまで来てもらう訳にはいかない。
兵太さんはそう言って、自ら少年を連れてサザナミタウンまで行く決断をした。
兵太さんは飛行タイプのウォーグルなので空路を選ぶことも出来たのだが、なんでも少年を乗せて連れて行くには彼が逃げてしまいそうなので、今回は止めておくとのこと。
坊主を咥えて飛んでも良いんだぞ、と兵太さんは言ったが、少年があまりにも必死に首を横に振ったため、それは却下となった。

……そういえば、ポケモンセンターを出発する際、スタッフのタブンネから、とてもにこやかに行ってらっしゃい、と言ってもらったのだが……。
あれは一体、何だったのだろう。

「それにしても、こりゃあ完全に枯れてんじゃねえか……。タウンマップも、いい加減だな」

一番後ろを歩く兵太さんが、ふと呟いた。
ここリバースマウンテンは、昨今も噴火を繰り返しており大きなニュースになっているといわれている。……否、いわれていた。
少なくとも、私の持っているタウンマップにはそう綴られていたのだが、実際は遠い過去に巨大な噴火があったのみで、今ではこの通り、完全な休火山と化している様だった。
現地のトレーナーに尋ねてみても、ここ数十年間、この火山の噴火はみられていないという。
全く、あの迷いの森といい、この火山といい、この機械の説明書きは兵太さんの言う通り、いい加減だ。

「やっぱり私、この機械を作った会社に連絡を……」

「いや。それはやめとけって、ミツキ」

「ねぇー。ぼく、もうおなかすいたよー」

「だからなあ坊主、もう少しで出口だっつってんだろうが……」

「あ、さっき買ったおせんべいがあるよ。食べる?」

「わーい! たべるー!」

「え、まじかよ。じゃあ俺もー!」

「お前ら……」

静寂に包まれていたはずの洞窟内を、わいわいと賑やかに進んでいく。
普段とは違う楽しさに、私も何だか心が浮ついてしまう。
そんな時だった。

「ん……?」

先頭を進んでいた陽が、その歩をぴたりと止めた。


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