夏に似た瞳

 128.

シキミさん……?
覚えの無い名前に、首を傾げる。
有名人……の名前だろうか。

「知らねえのか。……まあ、ジムリーダーほど表に出ねえ奴等だからなあ。シキミってのは、イッシュリーグ四天王の一人だ。ゴーストタイプの使い手でな、副業で作家業なんかもやってる、なかなかに著名な奴だよ」

「そ、そうなんですか……」

しまった。
新聞やテレビのニュースをこまめにチェックしようとしてはいるものの、ポケモンリーグの、四天王とは……。
盲点だった。
ぼろが出ない様に言葉少なに返答すると、兵太さんはさして気にする素振りも見せず、話を続けてくれた。

「そいつに今、こいつの事について相談したら、しばらく預かると言ってくれたんだよ。向こうも、この一連の事件については知っていたみたいでな。気にしていたんだとよ」

「ええっ。それじゃあ、この子は……」

「晴れて、シキミの手持ちポケモンになるって訳だな。お目付け役はいるし、坊主は念願の帰るべき家が出来たってことだ」

なるほど、そんな方法があったのか。
きっとイッシュリーグの四天王ともなると、その強さゆえ、少年の様な大きな問題を起こしたポケモンの世話も容易いのだろう。
しかもそのシキミという人物は、少年を自身の手持ちポケモンにしてくれるというのだ。
こんなにありがたい話は、他にないだろう。

「そっか、そうだったんだ。良かったね」

そう言って、少年の方へ向く。
すると、少年は予想に反して、とても不服そうな表情を浮かべていた。

「ちぇー……。おねえちゃんなら、そんなひとといっしょにいかずに、わたしといきましょうって、いってくれるとおもったのになあー」

そんな少年の可愛いわがままは、申し訳ないが、この場では聞かなかったことにしよう。


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