夏の夜の光
159.それからまた、幾月が過ぎた頃。
とうとうそれは、完成しました。
「では、ミーティング通りに。君の状態は、こちら側で完璧にモニタリングしている。……が、何かあれば、右のコールで呼ぶように。いいな」
「はい」
レアコイル、及びジバコイル専用磁場装置。
チェンジングキーと呼ばれるその胎内で、私は、酷く落ち着いた返事をしていました。
彼の言った通り、私は今回の実験における一匹目の実験サンプルになりました。
冷たい私の鋼の身体は、よく分からない機械やライトに包まれて、非現実的な異彩を放ち、もうこの世界に私は居ないのかもしれないと、ぼんやりとした頭で、そんなことを考えていました。
今回の実験で成功の見込みは無いと、私自身も分かっていました。
研究者の誰かから、そういった話を聞いたわけではありません。
そういうことは、彼等の目と手足を見ていれば分かるのです。
「おい……、おい、何を呆けた顔をしている」
「え、あ、はい」
「……。いいか、君にはまだやって貰わねばならんことが山ほどある。この実験が終わった後、君は再び、様々な検証に付き合わされるのだ。今の君に、立ち止まって考えている余裕などないぞ」
「……」
「見えもしない世界を見ようとするな」
「は……?」
「何でもない。では、またな」
そう言って、彼はチェンジングキーのあるこの部屋から出ていきました。
私の周りに在るものは、無機物な暗い光と、何かの息遣いの様に唸る機械音だけになりました。
それがだんだんと濃く、大きくなるにつれて、私の心はぎりぎりと、錆びた針で掻かれる様な感覚に襲われました。
これで本当に、私はこの世界から居なくなってしまうのですね…。
そんなに長くも無かったけれど、生きてきた大半は、自分に見合った、好きな研究に打ち込むことができ、良いと思える生き方でした。
後半はやや理不尽な扱いも受けましたが、良き理解者と言える人物にも巡り会えました。
彼は最後まで……、
……最後まで?
ああ、貴方は酷い人です。
貴方はそうやって、私をひどく不穏な気持ちにさせる。
最後まで、そんな、未来に繋げるような言葉を、私に向けるのですね。
貴方がそんな言葉をくれるから、近付ける訳がないのに、近付くべきではないのに、私は貴方の近くへ行きたいと思ってしまうのです。希望をもってしまうのです。
貴方の近しい存在になれはしないかと。
人間に、なれはしないかと。
人間に、なりたかったと。
・
・
・
実験は失敗しました。
目覚めた時、私は、目の前でうなだれ、何かに向かいひたすら謝っている、彼を見ました。
そして、彼に伸ばした自分の手に、五本の指が生えていることに、私は気が付きました。
その指先が恐ろしく冷たく、人間の肌の色とはあまりにもかけ離れた鉛色に輝いていることに、私は、愕然としたのです。
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