夏の夜の光

 158.

「抵抗、ですか?」

「他のポケモン達では、ここまで速やかに測定は行えない。抵抗して、暴れて、自傷する。君は、そうならないんだな」

「……はい」

「……まあ、お陰で君だけは、こんな簡易な強化ガラスのケージで済んでいる。経費的にも、助かっているのだ」

「……」

「……恐らく、なのだが」

手を止めて、コンピュータに向けていた瞳をこちらに向けて、彼は言いました。

「恐らく、君はまた、一番目の実験サンプルになるのだろうな」

その瞳が何を想っているのか、私には分かりません。
悲しみ、愁い、憂い。
そんな瞳であったと、私は思います。

……そんな瞳であったらいいのにと、私は思いました。

これは、私のわがままな、願いでしょうか。
私のこの悲しみを、愁いを、憂いを、貴方が解ってくれているならば、共に想ってくれているならば、私は、それだけで命をも救われた気持ちになれるのです。

そう……。私はこんなにも、貴方の近くに居たいのです。
貴方に近しい存在でありたいのです。
貴方が居るから、こんな、不条理な運命にも、逆らわずに生きていこうと思えるのです。

「……人間に、なりたいです」

「……は」

「貴方と同じ、人間に、なりたいです」

私達サンプル用のポケモンは皆、人間化しない様、特殊な薬を毎日摂取しています。
実験用のポケモンに、人間化は許されません。
第一に私は、人工進化を遂げたポケモンです。
今この時、人間化したところで無事でいられるかどうか、分からないのです。
けれど、それでも。
いつか、いつか。いつの日か。

「……」

彼は、何も言いませんでした。
じっと私を見つめ、口を何度か動かそうとするその姿は、まるで何を言うべきか、迷っている様でした。

何を言ってくれても、構わないのに。
そんな私の思いは届かず、彼はそのまま、黙って部屋を出て行きました。
彼の猫背は、更に深くなった様に見えました。


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