夏に遭う時
160.*****
「ここもすげえな……。ミツキ、気を付けろよ」
「う、うん……」
カゴメタウンから北東へ進み、雑木林を抜けた先。
元は人が通れる道や階段が在った様だが、今は石ころや雑草に覆われた悪路になっている。
そのうえ昼間であるにも関わらず、辺りが濃い霧に覆われているせいで、足場が酷く見えづらい。
そんな道を私達は今、ひたすらに歩き続けている。
陽が手を取り先導してくれているのだが、こんな獣道に歩き慣れていない私は、先程から蹴躓いてばかりいる。
そんな私を見兼ねてか、陽がおぶろうかとも言ってくれたのだが、流石に恥ずかしいので断っておいた。
……手を繋ぐのも、充分に恥ずかしいのだけれど。
ここにはジャイアントホールと呼ばれる、その名の通り、巨大な穴が存在する。
大昔に落下した隕石のクレーターだの、ここに近づくと災いが降り懸かるだの、カゴメタウンでは嘘か真か、そんな話が言い伝えられている。
迷信に俗信、ジンクス。
古人からの言い伝えとは何とも信じがたいものが多いが、それでもどこか気になってしまうのは、仕方のない事なのだろうか。
昔の人が知恵や経験を集めて出来たものや、子供に言い聞かせる為に出来た方便。
中には良い言葉は良い事を呼ぶという言霊の信仰によって出来たものも数多くあるだろう。
その内のどれに当てはまるかは分からないが、カゴメタウンにも一つ、言い伝えられる話があった。
大昔、ここへ落下した隕石。
その隕石には巨大な化け物が潜んでおり、この地に棲みついた化け物は、毎晩凍える様な風を拭き荒し、人やポケモンを食らうのだという。
その為カゴメタウンはその名の通り、街全体をぐるりと塀で囲い、人々は夕刻になると帰路に着き、必ず屋内で一夜を明かす。
そういった古くからの習わしが、今でも根付いている町なのだ。
「隕石に潜む化け物なんて、宇宙人じゃない」
そんなの、居るわけないわ。
町の人からその話を聞く度に考えていたことが、ふと口に出た。
彼等が聞いたら憤慨するかも知れないが、私にはそう思えて仕方がない。
まあ、夜間に外を出歩かないという習慣はとても感心するし、この迷信自体もそれが目的で造られたものなのだろうが。
「でも妙にリアルじゃねーか。凍える風を吹かせるとか、辺り一面が雪原に変わったとか」
「……遭難しかけて、夢でも見たんじゃない?」
「でもさ、別の世界に飛ばされた様だったって言ってたらしいじゃねーか。すげーよな!」
「……ええ、そうね……」
……そう、別の世界。
別の世界に飛ばされた様だったと、その人は言ったらしいのだ。
その人物は旅をしているトレーナーであり実際に会う事は出来なかったが、人伝に町の住人からそう聞いたのだ。
本当にそれが別の世界だったのかは分からないが、何かの手掛かりにはならないだろうか。
私の、元居た世界へ帰る手掛かりに。
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