夏に遭う時

 161.

「あっ、そこ、モンジャラの蔦があるから、踏まない様にな」

「えっ、あ、と……!」

慌てて足の着地点を捜し直し、よろけながら地面に着地する。
何も踏んだ感触は無いし、ポケモンの悲鳴も聞こえない。私も無事だ。
陽に支えて貰わなければ、危ないところだったけれど。
……陽は、知ってか知らずか、何の脈絡も無くジャイアントホールへ行きたいと言った私に対し、二つ返事で承諾してくれた。

昨晩。私は陽へ、自分で答えを見つける様に、言葉を掛けた。
そして、それを見つけるために、私のことを案ずる必要は無いのだと。そう言った。

陽は今、迷っている。
自分の生き方を、在り方を。自分の罪を、どう償うべきかを。

……それに関して、私の存在は関係ない。
陽は陽で、自分の道をしっかりと迷い、考えるべきだ。
私の存在が、彼の邪魔をしてはいけない。
私が関わり、変に彼を悩ませたから、きっと、あんなに追い込まれてしまったんだ。

ならば私は、一刻も早く、自分のやるべきことを済ませるべきだ。
一刻も早く、元居た世界へ、帰るべきだ。
そうと決まれば、宛など無いが、関係のありそうなことはきちんと調べておかなければならないだろう。
まずはこの、カゴメタウンに伝わる迷信について。
午前中にはその話に精通している人へ尋ねて回り、それ関する文献も読み漁った。
陽に頼ってばかりもいられない。
……もうすでに、彼を頼りきりにしているのは否めないけれど。

「……陽」

「ん? なんだ?」

振り向く彼にどんな顔をしていいのか、分からない。

「いつも頼りにしちゃって、ごめんね……」

ありがとう。
そう言うと、陽は一瞬、きょとんと目を丸くした。
その後、彼はすぐに笑顔になり、私の手を引いた。

「いいんだって! ミツキは俺の、パートナーだからな!」

嬉しそうにそう言って、また一つ小さな崖を、二人で下りる。
振り向くと、先ほど私が踏みそうになったらしい、モンジャラと呼ばれるポケモンが居た。
草の陰にうずくまったそのポケモンは、どうやらよく眠っているらしい。
モンジャラの持つ長い蔦は、無防備にだらんと他所へと伸びてしまっている。
きっとここが、彼等の住処なのだろう。
彼等の、生きるべき場所なのだろう。


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