夏を追う朝
179.*****
「陽クン」
冷たく光る電灯が辺りを照らす、ソウリュウシティの夜明け前。
大きな翼を広げて飛行の準備に入ったピジョットをぼうっと眺めていると、意外な奴に声を掛けられた。
アズマだ。
「ナガアキからネ、少し話を聞いたんだヨ。君もサ、いろいろと大変だネ」
「え……、ああ」
返答してみたものの、何の用だろうかと首を傾げると、アズマはナガアキ達を見据えながら、俺に話し始めた。
「ボクもネ、かつてはナガアキ達と同じ場所で働いていたんダ。……とてモ、複雑な環境だったヨ。……だからネ、ナガアキ達のいま生きる苦しみや悲しみヲ、ボクは少シ、分かっているつもリ。もちろン、ボク自身の悲しみモ、ボクは分かっているつもりだヨ。……この記憶は、決して消えなイ。それもボクハ、分かっているつもりだヨ」
「……そうか」
昨晩の、零の話が頭を過ぎる。
「でもネ」
「え?」
アズマは、白い歯の似合う笑顔で言った。
「いくら辛い過去を引きづってモ、今がどうしようもなく大変デ、苦しくてモ、そんなことと比べてみたとしてモ、生きることっテ、最高」
「…………。うん」
「陽クンにも必ズ、そんな時が訪れるヨ」
グッドラック。
そう言って、アズマは俺に向かって、ぐっと親指を立ててみせた。
「何をおしゃべりしている。早くしないか」
ピジョットに乗ろうとするナガアキの、俺を呼ぶ声が、聞こえた。
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