夏を追う朝

 178.

「さて。本題はここからですよ、陽さん」

「え?」

「ナガアキのことですが……、彼は私を実験台にし、私の生き方を大きく変えてしまったことを、酷く後悔している様なのです」

「……。それは……」

それは、仕方ないんじゃないか?
陽さんは言いました。
そう、確かにそうかも知れない。けれど、それでも……。

「それでも、前に進めず、立ち止まってはいけないと……。そうは思いませんか。陽さん」

見つめた陽さんの瞳が、くらりと揺らめきました。
ああ、やっぱり似ている。
あの頃の、ナガアキに。

「心持つ生き物は、改心するものですよ。陽さん」

「…………改心?」

「ナガアキと共に研究所を出てからというもの、ナガアキはずっと、塞ぎこんでしまっていました。それこそ、食事も喉を通らない程に……。……その原因が、この私自身であるということを知ったのは、かなりの月日が経ってからのことでした。……ある日、ナガアキは言ったのです。私というこの存在が、自分の犯した罪であり、罰なのだと……。ナガアキにとって、私と共に行動することそのものが、自分に対する、戒めであると……」

「……」

「それを聞いた私の気持ちが、陽さんには分かりますか?」

「……。うん」

「どれだけ悲しかったことか。私は、ナガアキと共に研究所を出て、共に歩き、色々な物を見て、知ることが出来て、こんなにも美しい世界があるのだと、心から嬉しいと感じていたのに、それなのに……」

「うん。……うん。……そうだな、そうだよな……」

「そう、だから……」

「……?」

「だから陽さんも、決別してください。貴方の犯したという、罪から。……忘れろと言っているのではありません。きちんと向き合って、心を改めて、次へ踏み出す一歩はどこへ向かうべきなのか、よく考えて下さい」

「…………。そう、だな。確かに、そうかもしれない」

「そうですよ、きっと」

「ああ、なんだか……。うん」

「……?」

陽さんが、顔を挙げました。
憑き物が落ちたような、とても落ち着いた表情でした。

「なんだか、前にミツキが言ってたこと、少し分かった気がする」

陽さんの青い瞳が、静かに光りました。
その先にはゆっくりと流れる雲の合間から、夜空を優しく照らす月の光が、見え始めていました。

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