夏の陽と月

 20.

心理学の知覚心理で使われる言葉の一つに、ポップアウト現象というものがある。
ポップアウト現象とは、探したい対象物を発見する際に発揮される。
探している対象が数多くの妨害する物体の中にあったとしても、何か特徴付けることにより瞬間的にターゲットを認知できる、というものだ。
今、私が探している対象は、彼。
特徴付けるものは、真っ赤な髪色。

「はぁ、はぁ、……っ、はぁ」

街の光に目を眩ませつつも、私は彼の姿を必死で探していた。
多くの出店と人混みが、私の視線を遮る。
私の足は、知らない間に小走りになっていた。
体力はあまり無い方だが、まだ大丈夫だ。
走れる。
探せる。

胸には、彼と食べようと約束したサンドイッチ。
もう、ぐちゃぐちゃになってしまっているかも知れない。
でも出来るだけ、崩さないようにと気を配る。
一緒に食べるんだ、彼と。

そんな想いが天に届いたのか、私は彼を見つけた。
ポップアウト現象の効果だろうか、思ったよりあっさり見つけられた。
彼は、どこか落ち着かない様子で出店の角に立っている。
あの赤髪に背丈、割と精悍な顔立ち。間違いない。
少し遠いが、はっきりと分かる。
……しかし、

「え、あっ、待ってよ!」

彼は私に気付くこと無く、どこかへ去ってしまった。
どうしたのだろう。

取り敢えず、後を追おう。
まだ、そんなに遠くないはずだ。
そう意気込み、足を踏み出した。

さあ、彼の名前を呼ばなくちゃ。

「ハル……、ハルー!」


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