夏の月に陰

 199.

ミツキの様子がどうもおかしいとは思っていたけれど、はっきりとそう感じたのは、これが初めてのことだった。
それは、ヒウンシティから乗船した船がタチワキシティへ到着し、街を歩き始めてすぐのことだった。

南西の港街、タチワキシティの北には、映画の都『ポケウッド』と呼ばれる場所がある。
映画の都が何なのかと言われてもいまいちピンと来なかったんだけど、何でもそこには今現在、カルネが滞在しているらしい。

カルネといえば、あのカルネだ。

白くてデカい帽子をかぶり、まんまるの黒いサングラスを掛け、変なオーラをキラキラと振り撒いていた、あのトレーナー。
PWTで一緒に観戦したミツキは何だかカルネのことが気に入っていたみたいだったから、……別に嫌な奴じゃなかったし……、俺からポケウッドに寄って行くか?って訊いたんだ。
ちょっとだけでもカルネに会えるかもしれないぞ、って。
でも、ミツキの反応はずいぶんと薄っぺらなもので、

「ううん。いい」

たったこれだけ返事をしただけだった。
ミツキのことだから、てっきり喜んで会いに行くもんだと思ってたんだけど……。
何なんだろうな、ほんとに。
しかもタチワキシティに着いてからすぐ、ミツキは眠くなった、と言ってポケモンセンターへ入って行ってしまった。
おいおい、さっき船の上で寝たばっかじゃねえか。どんだけ寝るんだよ……。

……どういうことだろう。
ミツキがどこかおかしくなってしまったのが、奴等にさらわれた後であることは間違いない。
ミツキは一体、あの場所で何をされたんだ?
それにどうしてミツキは、俺に何も言ってくれないんだ?
俺にはそのことがどうしても気掛かりで、不安だった。

初めて訪れたタチワキシティの、港と、町の埃っぽい匂いのする独特な物々しさが、俺の心を更にざわつかせていた。


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