夏の月に陰

 198.

*****

花火を見に行きたい。
ミツキがライブキャスターを片手にそう言ったのは、カノコタウンでナガアキ達と別れる前のことだった。

「はなび?」

「そう、花火。陽はきっと、見たことないでしょう?」

だから、一緒に見に行きたいんだけど……。
そう言って、ライブキャスターで何かを調べ始めるミツキ。
何なんだろう、はなびって。
思わず首を傾げる。
そんな俺たちに、零が横から声を掛けた。

「花火でしたら、近日ヒオウギシティという街で開催されるサマーフェスティバルで見ることができますよ」

ほら、とミツキのライブキャスターを横から操作して、指し示す零。
覗き込んで見てみると、それはどこかの町の広告の様だった。
その広告に載っている写真の、夜空を背景にした赤い光の輪っか。
これが、はなび?

「わあ、素敵! ねえ陽、ここに行きましょう!」

きっと綺麗な花火が見れるわ!
そう言ってミツキは、ぱっと振り向いて俺に笑顔を見せる。
そんなにいいものなのか? はなびって。

「ああ、いいぜ。行こう」

「やった!」

手を叩いてはしゃぐミツキを見て、思わず口がほころぶ。
夜に見たあの暗い表情が、嘘みたいだ。

嘘、みたいだ。


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