夏に残る風

 209.

一人疑問符を浮かべる俺を他所に、ミツキは俯いたまま、うわごとのように言葉を続けた。

「だめよ、陽……。そんなこと、言わないで……」

「え……。ミツキ?」

胸に手を当て、何かに怯えるような、ミツキの表情。
その様子に、俺はただただ、混乱するばかりだった。
……急にどうしたんだ、ミツキ……?

「嫌よ、嫌。……陽。どうして急に、そんなこと言うの? そんな、酷いこと……」

「待ってくれミツキ、俺の話を聞いてくれ。俺、そんな酷いことなんか、何も……!」

「嫌……! 嫌よ、陽……!」

ミツキが、俺の腕にしがみついてくる。
どうした? どうしたんだ、ミツキ……。

「落ち着いて、聞いてくれよ! 俺は何も急に帰るだなんて、言ってねぇんだぞ!」

「違う! 違うのよ、陽! そういうことじゃない! そういうことじゃあ……!」

腕に縋るミツキと、一瞬、目が合う。
その瞬間、ミツキはその瞳を、より一層大きく見開いた。
そして。

「あっ、ミツキ!!」

突然ミツキは、森の方へと走りだした。
走り辛そうな服と靴を身に付けているものだから、走るスピードは普段より遅くて、今から追い掛ければ、すぐに追いつきそうだ。
けれど俺は、さっきのミツキの反応が頭の中でリフレインして、ただ茫然と、そこに立ち尽くしたままでいた。

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