夏が終る日

 219.

*****

タチワキシティの港、朝焼けの波止場。
そこにぽつんと立っている人影は、近付いた俺に向かって、静かに声を掛けた。

「おはよう。いいあさだね」

「……おはよう。久しぶりだな」

「そうかな? ぼくは、そうでもないとおもうよ」

「そうか?」

「うん。そうだよ」

「そうか……」

目の前に居るジュペッタに、どういう顔を見せて良いのか分からず、俺は頭を掻く。
俺の目の前に居るのは、以前サザナミタウンでシキミの手持ちポケモンになった、ジュペッタの智秋だ。

「智秋、ありがとう。急に呼び出したのに、ここまで来てくれて」

「ううん、いいよ。シキミおねえちゃん、ちょうどここの、ぽけうっどっていうところにきていたんだよ」

「ええ? そうなのか?」

「うん。きゃくほんっていうものを、かいたんだって。ぼくにはよく、わからないんだけど」

「そうか……」

「うん」

「……」

「……」

「……智秋」

「うん」

「頼みたいことが、あるんだ」

智秋の瞳を、見つめる。

「お前が持っているっていう、三日月の羽根が欲しいんだ。……その羽根を、俺達にくれないか」

「……」

「お前が大切に、ずっと持っていたのは知っている……。でも、頼む……。お願いだ、智秋……」

「……」

「……ミツキの……大切な人の、ためなんだ……」

「……」

「……智秋……」

「……ぼくは」

「……?」

「このときをずっと、まっていたんだとおもう」

「え?」

なんだ、その応えは。

「いいのか? 本当に」

「うん、いいよ」

そう言って智秋は、持っていたポシェットから三日月の羽根を取り出した。
朝日に乱反射している、三日月の羽根。
これがあれば……これがあれば、ミツキを、この悪夢から救うことができる……。

「おにいちゃん」

智秋が、俺に声を掛ける。
その声が少しだけこわばっていて、どうしたのかと思い顔を上げると、そこには今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめる、智秋が居た。

「智秋……?」

「おにいちゃんは、じぶんたちがどうしてこんなことになってしまったのか、しってる? おにいちゃんとおねえちゃんが、ゆめのなかにとじこめられてしまった、ほんとうのりゆうを、しってる?」

「え……?」

驚いた。
どうして、どうしてそのことを智秋が知ってるんだ。
混乱する頭に、智秋の幼い声が響く。

「おどろかせて、ごめんね……。でもきっと、ぼくだけがしっている、りゆうがあるんだ。だから、きいてほしい……」

智秋はゆっくりと、話し始めた。
それはゆっくりと、ゆっくりと、まるで、昔話をしているような話し方だった。

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