夏の陽と月

 29.

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「いまはさ、ミツキの元の世界へ帰る方法なんて、分かんねぇだろ? だから、それを探しに行こう。ただ、どこ探していいのか見当つかねぇし、調べ方も分かんねぇだろ? だから、ミツキの好きなとこから色々行ってみようかなって思ったんだよ」

そう彼は説明してくれた。
なるほど、そんな考えがあったのか。
何だか楽しそうだ。
ちょっとだけ、気分が明るくなれた。

「ふふ、ありがとう」

「えっ、なんだ? 急にどうしたんだ?」

「ううん、何でもないわ」

私の感情の起伏が激しいのは今更否めないのだが、彼の心遣いが私には嬉しい。
陽は、ただ無意識にやっている事なのかもしれないけれど。

「私、陽がただ単に旅行に行きたいって言ってるのかと思ってたわ」

「えっ!」

「でもそうじゃなくて、私の為に色々と考えてくれてたんでしょう?」

「……」

「それが嬉しかったのよ。ありがとう」

「……」

「…陽?」

感謝の気持ちを伝えたのだが、陽は、急に黙ってしまった。
どうしたのだろう。

「あの、陽? ごめん、私なにか」

「……ミツキ」

「え?」

突然、片方の手を握られた。
咄嗟の事で混乱するが、陽が視線を離してくれない。
とても暖かい。熱い。
トクリと私の鼓動が鳴る。
彼が、口を開く。

「俺、ミツキといろんなとこに行きたい」

「え……?」

「ミツキといろんなとこ見て、いろんなもの食って……」

「……」

「ミツキと、いろんなとこ旅したい。むしろ、そっちの気持ちの方が強い」

「……うん」

「……俺、今こんな気持ちなんだけど」

「うん」

「ミツキ、大丈夫か? 俺のこと、引いてない? いま俺、帰る方法探すの、二の次みたいな言い方しちまったけど……」

「うん、大丈夫。私も」

私も、一緒。

「陽と一緒に、色んな所へ行きたいな」

思い出をたくさん、作りましょう。
この世界での思い出を、貴方と共に。
そのかわり、私が帰るときには、笑って見送って頂戴ね?

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