夏の陽と虫

 30.

図鑑No.212、ハッサム。
はさみポケモン。虫・鋼タイプ。
鋼の身体を持つポケモン。
羽を使っても飛べないが、高速で羽ばたかせる事で体温を調整できる。
目玉模様が特徴的なハサミは鋼鉄を含んでおり、岩をも粉砕する威力を持つ。

今、私がいるのはポケモンセンター内の図書コーナー。
ここには様々な本…特に、ポケモン関連の本が多く並べられている。

「なー、ミツキー」

「……」

「なぁー、なぁーってばぁー」

「……え? ごめん、何?」

「聞こえてなかったのかよー。ううー。なぁ、もういいだろー?」

「もうって……。まだ、これだけしか読んでないわ」

「そのポケモン図鑑、ぜーんぶ読む気かよー」

「えっ」

私の手には、分厚い……国語辞典や英和辞典が3冊分はありそうな大きい書物がある。
ポケモン図鑑だ。
この中には、人間が確認しているポケモン全ての情報が掲載されている。
世の中にはこのポケモン図鑑の電子式があるらしいが、それは一部の者しか持つことが出来ないらしい。
もちろんそんな物を持ち合わせていない私は、この場でこの巨大な図鑑を眺めるしかない。

「そんなつもりじゃないけど……」

「新聞はここにあるやつぜーんぶ読んじまうし、初心者トレーナー向けの本はすっげぇ時間かけて読むし……。何時間ここにいんだよ」

「し、仕方ないでしょ! 私、ここの事、何も分からないんだもの……」

「それはまぁ、そうかもしんねぇけど……」

「沢山あるの……知りたい事が」

「うーん。そう、だよなぁ…」

「で、でしょう? それに、今日はずっとここで過ごそうって言ったじゃない」

「えーっ! 本気だったのかよー!」

俺、ヒマで死んじまいそうだ……と、うんざりした表情で返す彼。
……暇で死んだりなんかしない。
時刻は、もう昼過ぎを指そうとしている。
そろそろ休憩もいいかもしれないが、まだまだ読み足りない。

私は、とにかく知識が欲しかった。
この世界……特に、ポケモンに関する知識が。
だから、しばらくはここで情報を得るつもりだ。
ポケモンの事、ポケモンバトルの事、ポケモンに関する注意やマナー、規制、法律、事件、事故。
ポケモンを知らない私は、ポケモンがいるこの世界の常識を知らなければならないのだ。

「ああー、ヒマだー」

長椅子にごろんと仰向けに寝転がり、陽が独り呟いた。


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